ゆめのやすらぎ

眠気とめまいがぐちゃぐちゃに混ざって、
歩いているだけで倒れそうだった。
原因は自分でもよく分かってる。
単純に、この一週間まともに眠っていないからだった。

でもそれも今日で終わり。
今夜の学会で、この数年間の研究成果を発表する。
それで僕の数学者としての地位は確立する。

研究内容には自信があった。
数学界の名誉であるフィールズ賞の獲得だって間違いないと思う。
もうすぐ誰もがうらやむ栄光を、誰からも認められることのできる栄誉を、
やっと手に入れることができる。

……だけど、その前にまずは身体を休める必要があった。
こんなにふらふらでは、まともに発表をするどころじゃない。
それ以前に、不注意で車に轢き殺されかねない。

そう考えたところで、運良く一軒の喫茶店が目に入った。
真っ白いドアに「OPEN」と金文字で書かれたプレートがかかっている。

不思議なことに、この辺りのお店はどこも人で賑わっているのに
ここだけは人の気配がしなかった。
夕方6時過ぎという、お客の集まりそうな時間にもかかわらず、だ。
大体にして窓がないし、OPENのプレートがなければ営業中かさえ分からない。

でも、いまの僕には深くあれこれ考える余裕がなかった。
とにかく座って休めれば、それでいい。
そう思ってドアを押した。
ドアを開けた先には……メイド服を着た美しい女性がいた。

「お待ちしておりました、ご主人様」

僕はしばし呆気にとられ、それから遅れていろんな疑問が浮かんでくる。
ここが噂に聞くメイド喫茶というやつだろうか?
それにしては店内には他のメイドさんの姿は見えない。

戸惑う僕にはかまわず、彼女はにっこりと笑いかけてくる。

「お待ちしておりました。どうぞお入りください」

彼女は当然のように僕の手をとった。
その手はひんやりと心地よく、そして柔らかかった。
彼女の手の感触をもう少しだけ長く感じていたくて、
それで気がついたら、僕は店のなかに招き入れられていた。

店内は控えめな照明でぼんやり照らされている。
小洒落たカフェというよりは、高級ホテルのなかに併設されていそうな、
落ち着いた雰囲気のあるお店だった。
調度品もきれいに磨き上げられていて、品の良さを感じさせる。
ただ窓がどこにもないせいか、閉塞感に似た奇妙な感じがある。

店のいちばん奥のテーブルまで来ると、彼女は手を離した。
手が離れる瞬間、ほんの少しだけ指が絡む。
彼女はわずかに目を見開いて……それからゆっくりと指を引き抜いた。
そんな動作一つ一つが、ひどくなまめかしい。

彼女は無意識にだろうか、そのまま手を頬にあてて微笑んだ。
なんとなく自分の指で彼女の頬を撫でているような、
そんな気がして、妙にいやらしい気持ちになってしまう。

「ご主人様、どうなさいました?」

僕からの視線に気づいたのか、彼女が不思議そうに聞いてくる。
自分の下心を見透かされた気がして、僕はしどろもどろになってしまう。

「なん、なんでも、ない……です。
 あ……そうだ、あの、ここってメイド喫茶なんですか?」

「いいえ」

え、と驚く僕の前で、彼女は再びにっこりと笑った。
でも今度はその笑顔のなかには、隠し切れない艶やかさがあった。

「ここは夢喫茶。ご主人様の夢を叶える場所です」

「ゆ、め……?」

「そう。夢喫茶。私のこの姿も、衣服も、口調も、この室内も、
 すべてご主人様が望まれたもの」

彼女はおもむろに、僕の脚の上に横向きに腰をおろす。
その行為を失礼だと批難するより前に、その身体の柔らかさに僕は言葉を失う。
腿の上に、彼女の太ももと、お尻のたしかな重みを感じる。

「申し遅れました。私、夢魔のナナと申します。」

言いながら彼女、ナナさんは左胸を僕に押しつけてくる。
たしかにそこには「夢魔 ナナ」と印字された名札がついていた。

「さあ、ご主人様の夢はなんですか?」

「僕の……夢?」

一瞬、思考が空白になって停止する。
けどそのすぐ後で、数字や数式が雪崩のように意識に流れ込む。
僕の夢がなんなのかなんて、考えるまでもないことだった。

「僕は、数学者として一流の、」

でもナナさんは僕が最後まで喋るのを許してくれなかった。
マンガでよくあるみたいに、人差し指が僕の唇に押し当てられる。

「嘘をおっしゃってはいけませんよ、ご主人様。
 ここは夢魔の……言い換えれば淫魔の休憩所。
 ここに来た時点で、どんなことを望んでらっしゃるのか、
 おおよそは分かっているんですよ?」

ナナさんは僕の手をとると、エプロンドレスの上から、
自身の太ももの上をそうっとすべらせる。
一体なんの素材で作ればこんなな手触りの良い布地ができるんだろうか。
サテンよりもさらにすべすべとした感触と、
そして生地の向こうにかすかに感じる腿の弾力。

「こういうことをしてみたい、って思ってたんですよね、ご主人様?」

「ちが……」

違う、と強く否定することができなかった。
だってきっとナナさんは、気づいているだろうから。
そのお尻の下で、僕のあそこが徐々に固く膨らみはじめているのを。

「ちが……なんですか? 違うって言おうとしたんですか。
 ねえご主人様、どうなんですか。
 もし違うならやめますけれど、でもそうしたら……こっちは触れないですよ?」

彼女は僕の手を太ももから徐々にずらし、腰……そしてお腹の方へと動かしていく。
もう少し上に動けば、彼女の胸に、メイド服の上からでも分かるその巨乳に触れられる。
でも、どうしてもそこから先には進ましてくれなかった。

「ほうら、もうすぐご主人様の大好きなおっぱいですよ。
 触れますよ? むにむにできますよ?
 ……ねえ、ご主人様はこういいエッチなことがしたかったんですよね?
 女の子の身体を好きなようにいじったり、ううん、あるいはいじられたり。
 他のなによりも、そんなことがしたくてしたくて、たまらなかったんですよね?」

僕はとっさに目をつぶった。
彼女の身体を見ないように、欲情しないように、せめてもの抵抗だった。
なぜだかは分からない。
でも、今ここで彼女の言葉に「うん」と言ってはいけない気がした。
大事ななにかがパリンと割れてしまいそうだった。

…………ああ、でも。

いくら自分を抑えようとしても、ペニスまでは抑えることができなかった。
両脚の間ではしたなくベニスが暴れてしまう。
快感を肯定して、上下に動き、ナナさんのお尻に何度もカリを打ちつける。

くすっ、とナナさんが笑みをこぼす。

「お口では言えないのに、こっちではちゃんと言えるんですね、
 恥ずかしがり屋のご主人様。
 ……でもいいですよ。それが意思表示っていうことで許してあげます」

手の平に、むにゅっとした感触が押しつけられる。それがおっぱいの感触だった。
はじめて触れる、女性の乳房。
思わず目を開き、自分が本当に彼女の胸に触れているのか確かめてしまう。

ナナさんは僕の手を操って、自分の左乳の上にぐにぐにと押しつける。
下乳を持ち上げたかと思うと、今度は横から触らせてくれる。

「あら、ご主人様、だらしない顔になってますよ。
 服の上からおっぱい触るだけで、そんなに気持ちいいですか?
 もしかして、女性の胸を触るの、はじめてですか?」

僕は恥ずかしくてまともに彼女の顔を見られない。
ナナさんの言ったとおりだった。
僕はこれまでまともな女性経験がない。

中学、高校、そして大学と進むあいだ、僕はひたすらに数学の世界に生きてきた。
女性と触れ合う機会なんてなかった。
そんな暇があるなら勉強しなければいけない、そうしなければ、
輝かしい栄誉を手に入れることはできないと信じて生きてきた、から。

「その顔、本当にはじめてなんですね。
 ああ、かわいそうなご主人様。
 …………でも、とっても幸せ者でもありますよ?
 だって、はじめて触るのが夢魔の身体だなんて、幸せすぎます」

ナナさんは僕の両脚の上で身体をゆする。
それにあわせて、彼女のお尻がペニスを押しつぶすように圧迫してくる。
その刺激だけでいまにも精液を漏らしてしまいそうだった。

僕は全身に力を入れて射精こらえようとして、
なのに左手は……違う、気がつけば両手でナナさんの胸を揉みしだいている。

「んっ……あ、ご主人様、もう出そうですね?
 首をぶんぶん振ってもダメですよ、夢魔の私をだませるわけないんですから。
 ……といっても、そんな顔してたら、誰にだってバレちゃいますね、きっと」

言いながら彼女は身体を少しずらすと、
僕のズボンから手際よくペニスを取り出す。
彼女の少しだけ冷たい指が、快感にひくついているペニスに絡みつく。

「じゃあ、まず一回出しちゃいましょうか、ご主人様。
 いまから私が手でぎゅうって包みますから、そのなかに……あら?」

ナナさんの手に包まれて漏らす、その想像をしてしまったせいで、
それが現実になるより早く、僕は限界を越えてしまった。

腰の奥から精液が流れ出し、尿道管を駆け上がる。
止められなかった。このまま辺り一面にぶちまけてしまうと思った。

でもナナさんの動きはそれよりも早かった。
彼女は自身のスカートの裾をつまむと、くるりと僕のペニスを包んでしまう。

肌触りの良い布地に肉棒がくるまれる。
どうぞここに射精してください、とでもいうように布地が押し当てられる。

息がこぼれて、同時にだらしなく僕は射精した。

とぷ、とぷ、と断続的に精が吐き出されつづける。
ペニスが跳ねるたびに、亀頭がスカートにこすれるけれど、
それがまるで優しく撫でられているみたいで、
いい子いい子とさすられながら射精を促されているみたいで、僕は快楽に抗えない。
ナナさんに抱きついたまま、情けなく漏らし続けた。

それでも次第に快楽は弱まっていき、ついにはほんの小さなものになる。
僕がナナさんの身体から手を離すと、彼女は囁くように喋る。

「いっぱい出されましたね、ご主人様。
 快楽に酔いしれてらっしゃる顔、可愛かったですよ」

ナナさんは、ゆっくりとペニスをくるんでいたスカートを開く。
濃紺の生地の上には、べったりと白い粘液が広がっていた。

精液が垂れ落ちないように左手でスカートの裾をつまみ上げながら、
彼女は右手の人差し指をそっとねばついた汚れに近づける。

そしてそのまま精液をすくい取ると、ホイップクリームでも舐めるみたいに、
指先を口の中でねぶる。

「…………ふふ、そっか。そうなんですねぇ」

僕の精液を舐めながら、彼女はなぜか優しげな、
それでいてかすかな憂いを含んだような表情を見せた。

「なに……が?」

不可思議な表情を見せた彼女に、ついそう聞いてしまう。

途端、彼女はいやらしく微笑んだ。
今までの淫靡ささえ嘘に感じられてしまうぐらい、
どうしようもなく淫らな笑みだった。

その顔を見た瞬間、僕は……恐怖した。
心臓がぐちゃりと潰れたんじゃないかとさえ本気で思った。
逃げられない、という言葉が浮かんで消えた。

「ご主人様、毎日オナニーばっかりしてる」

いきなりの断言だった。
……でも、それは真実だった。
言い返す台詞を考えるより早く、ナナさんは次々と僕のことを言い当て始める。

「それも一日一回とかじゃない。二回も、三回も。
 お猿さんみたいに、勉強してるとき以外は、
 いつだっておちんちんをいじってばっかり」

「な、なんだってそんなこと……」

彼女はにんまりと笑う。

「分かっちゃうんですよ。
 夢魔にも色々いますけれど、私は精液を摂取すると、
 その人のこれまでがぜんぶ分かっちゃう、そういう身体をしてるんです」

ナナさんは爪の隙間に溜まった精液をまたすする。

「信じられません? じゃあ、もうちょっと色々当ててみましょうか。

 ……街中できれいなお姉さんとすれ違ったとき、一生懸命その匂いを吸い込んで、
 覚えておいて、それでお部屋に帰ってシコシコされるんですよね?
 その人のシャンプーの匂いを思い出しては、
 髪の毛に思いっきり精液を吐き出すことを想像してみたり。

 電車の中で女子高生のパンツが見えちゃったときなんか、
 心臓が破裂しそうなぐらいどきどきしちゃってる。
 それでお家に帰って、そのことを思い出しながらシちゃうんですよね?
 しかもこんなときのために、ネット通販で買った女性物の下着がお部屋に隠してある。
 今日見たのと同じ色のを選んで、それをおちんちんに巻きつけてしてみたり。
 ふふ、なんて変態なご主人様でしょう。

 お部屋には他にもいやらしい物がいっぱい。
 パソコンにはエッチなゲームがいっぱいインストールされてて、
 オナニーホールっていう玩具で遊びながら、
 毎日毎日だらしない顔でお射精されてるんですよね?
 それから……」

「お願い、やめて……よく、よく分かったから」

僕はナナさんの手をとって、額をこすりつけて懇願していた。
すると彼女は言葉を止めて、
それからもう一方の手でペニスの先端をそうっと触ってきた。

知らないうちに、ペニスはまた大きく勃起していた。
ナナさんに言葉で辱められてるのに、なぜかまた快楽の火が燃えはじめる。
自分の惨めで情けない姿が全部、この美しい女性に知られてしまった。
それがどうしようなく恥ずかしく、そして……どうしようもなく気持ちいい。

「泣きそうなご主人様、可愛いですよ。
 でもね……分かったことはそれだけじゃないですよ?
 ご主人様がどんな人なのかも、
 それと、ご主人様の本当の夢も私分かってしまいましたから」

「僕の、本当の……?」

ナナさんは慈愛のこもった表情でうなずく。
僕のなかでさっき感じた恐怖が裏返って、
潰れたと思った心臓がどくどくと速い鼓動を打ち出す。
うっ血していた血液が急に流れ出すみたいに、
安堵と陶酔感が溢れてくる。

「ご主人様、とっても賢いんですよね。
 お勉強だって、とってもよく出来る。
 ……でも、だから、みんなに認められないといけないと思って、
 それでずうっとしんどかったんですよね?」

耳から媚薬を流し込まれているみたいな気分で、
僕はその言葉をじっと聞いている。

「本当は、賞とか名誉なんて欲しいわけじゃない。
 みんなから褒めてほしいんじゃなくて、
 ただ、そうっとしておいてほしかったんですよね?
 ……だけど、そのためには結果を残して、
 みんなを満足させないといけない、そう思ったんですよね?」

心のなかでなにか硬いものが壊れて、
かわりに甘くとろとろとした液体が流れ込んでくる。
ナナさんの言うとおりかもしれない……ううん、きっとそうだ………。
 
「ご主人様は、ただ誰からも非難されたくなくて、
 一生懸命頑張ったんですよね?
 大好きなエッチなことも、一人でこっそりするだけで我慢して
 ずっとずうっと、頑張っていらしたんですよね。

 ……でも、もういいんですよ。
 ここは夢喫茶。
 自分の夢を捨ててしまったご主人様に、もう一度夢を教えてあげる場所。
 ご主人様の本当の夢……なにもかも忘れて、いやらしいことにふけって、
 きれいな女の人に、何回でも何回でも射精させてもらいたい、
 それを私が叶えてあげます」

彼女がそう言ってくれるのを聞いた途端、
僕の手は無意識のうちに、その身体をまさぐり始めていた。
太もも、お尻、脇、二の腕、おっぱい……ナナさんの身体のあらゆる場所を、
余すところなく触りつくすように手を動かす。

「ふふ、ご主人様ったら焦らないでください。
 ゆっくり、ゆっくり楽しみましょう。時間はたっぷりあるんですから。
 ……そうですね、まずはさっき出来なかったことから。
 私の手のなかで優しく漏らしてあげるっていう約束から果たしましょうか」

ナナさんは僕の身体から下りると、今度は僕の両脚のあいだにひざまずいた。
そして両の手を祈るように組むと、肉棒を深く包み込む。
自分の性器が、誰かの両手にぎゅっと包んでもらえるのが、
こんなに安心できて、幸せで、なにより気持ちいいだなんて知らなかった。

ペニスが両側から、ゆっくりと圧迫され、次に少しだけ上下にこすられる。
親指と人差し指のあいだから、ペニスの先端がわずかに顔をのぞかせる。
すでにカウパーがたらたらと漏れていた。

「焦らないでくださいって言ったのに、ご主人様のここはせっかちさんですね。
 こぼしちゃダメですよ、もったいないですもの」

ナナさんは両手の上に顔をかがめて舌を伸ばすと、
蜜でも舐め取るみたいにちろちろと尿道口をなぞる。

「ん…んんぅ……!」

その優しい刺激でさえ、いまの僕には耐えがたかった。
尿道口の内側を舌がかすかに触るたび、
脳みそを直接舐められてるみたいな錯覚に陥る。
 
ちゅるっ、と多分わざと音を立ててカウパーを吸い上げてから、
ナナさんは今度は先っぽから亀頭を丁寧に舐め回してくる。
彼女の唾液は、薄いローションみたいな粘り気を帯びていた。
しかも、その唾液はとめどなく彼女の口から溢れてきて、
ほんの数秒のあいだに、両手とペニスの中はずぶ濡れになってしまう。

「こういうの、ご主人様は大好きなんですよね。
 お部屋でもいっつも、ローションとオナホールで遊んでらっしゃいましたもの。
 今度は私の唾ローションと、手オナホで、ぐちゅぐちゅぬちょぬちょ、
 どうぞ心行くまで気持ちよくなってくださいね」

じゅるっ…ちゅぽんっ……ぐじゅっ…。

少し手を開いたかと思えば、不意にぐっと締めつけてきて、
ぎゅぽっ、じゅぱっっと、粘液と空気が混ざって卑猥な音を立てる。
 
ペニスが揉みくちゃにされるたびに気持ちよさで身体中が震えるのに、
心はどんどんリラックスしてくる。
気がつけばペニスは固さを失い、半勃ちの状態になっていた。

「ご主人様、ご存知ですか?
 ホントに気持ちいいと、こうやっておちんちんがふにゃふにゃの状態でも
 ちゃんと射精できちゃうんですよ。
 それも思いっきりだらしなく、よだれでもこぼすみたいに、はしたなく」

股間を精液がゆっくりと上ってくるのを感じる。
いつもの射精のときはまるで違う、勢いのない、ゆるやかな動きだった。
なのに、なのに、僕は射精をこらえられなかった。
ペニスの根元を通り、陰茎のなかを上っていくのがはっきり感じられるのに、
止めることができない。

「大丈夫です。さあ、ゆっくり深呼吸してください。
 手足もだらしなくだらんってして、口も半開きにして、身体中リラックスして。
 それからおちんちんの力も抜いて、
 我慢しようとか、こらえようとかなんにもしないで、
 とろとろって出しちゃっていいんですよ」

ナナさんの言うとおりに力を抜いて……そのまま射精した。
いまはペニスの先端まですっぽり覆ってしまったナナさんの手のなかに、
温かな粘液がちょろちょろとこぼれていく。
蜂蜜が容器から流れ出るみたいに、長い時間をかけて流れ出していく。

精液がこぼれるたびに、身体が軽くなって、
宙に浮かび上がってしまいそうな浮遊感にとらわれる。
意識に桃色のもやがかかって、なにも考えられなくなる。
ただナナさんの手の平の柔らかさと、彼女の身体から漂う甘い匂いに浸り、
精を吐き出し続けた。

精液が止まったあとも、ナナさんはしばらく僕のペニスを包んでくれていた。
それから、両手いっぱいに溜まった白濁液をこぼさないようにしつつ手を離す。
彼女はその精液を丹念に舐め取りながら、僕に笑いかける。

「これで、もっとご主人様のことが、わかります。
 …………ふふ、いまなにを考えているのかまで、わかっちゃいましたよ?
 はじめてのこと……シたいんですよね?」

唾液でぬめった指先で、ナナさんは僕の頬を撫でる。
精液と唾液の入り混じった匂いが、理性を遠くへと追いやっていく。
 
自分の精液を、もっと彼女の体液とぐちゃぐちゃに混ぜ合わせたい。
そのイメージで頭のなかがいっぱいになる。
最後まで頭に残っていた数字や数式の幾つかが、
ぬるぬるの液体に溶かされていく。
 
「さあ」

短く言って、ナナさんは立ち上がる。
僕の両脚を揃えさせると、その上にまたがってくる。
 
スカートの裾は膝上まで持ち上げられているけれど、でも秘所は見えない。
でもきっと下着もなにもつけていない、そんな気がした。
彼女は僕の目の前で……しずかに腰を下ろした。

ペニスがあたたかい肉に包まれる感覚、
僕の胸にぎゅうと押しつけられるおっぱい、
彼女の身体の心地よい重さ、顔にかかる吐息。
そんな感覚がいっぺんに押し寄せる。

「入っちゃいました、よ?」

その一言で、自分のペニスがナナさんの膣に入っているのだと意識する。
僕の、おちんちんが、このメイドさんの、なか、に……。

意識すると同時に、ペニスが一気に大きくなる。
それにまるで対抗するみたいに、ナナさんの膣壁が柔らかく、
それでいて力強く肉棒を押し返し、締めつけてくる。

「ご主人様のはじめて、もらっちゃいました。
 ……どうですか?
 私の中、気持ちいいですか?」

椅子の上で抱き合った格好のまま、ナナさんが耳元で囁く。
だけど、答える余裕は僕にはなかった。
噛み締めてる奥歯の力を抜いたら、いまにも射精してしまいそう、で。

「なにか言ってくださいよぅ、ご主人様」

 ナナさんの舌が、僕の耳の内側をなぞった。

「ひぃぁっ……!」

僕の口から情けない声が漏れて、それと一緒に精液もこぼれてしまう。
精液が溢れるのと同時に、ナナさんの膣内がひくひくと蠢いて、
ひだがペニスの表面を這い回る。
彼女の腰はほとんど動いていないのに、膣だけが生き物みたいに精液をすすっていく。

「はい、出ちゃいましたね♪」

今まで以上に弾んだ声で、ナナさんが僕に話しかけてくる。

「ねえ、知ってますか、ご主人様?
 夢魔のなかには、精液を飲むとその人のことがわかっちゃう種族がいるんですよ?
 ……あ、さっき説明しました…よね?
 ふふ、よかった。私、言い忘れていたらどうしようかと思って。
 でも、ちゃんと教えてましたよね。
 膣内で精液を飲むと、その人を思い通りにできちゃうんだってことも」

頭がふわふわして、ナナさんが何を言っているのかよくわからない。
とにかく彼女は嬉しそうだった。はしゃいでいた。
それでいいじゃないか。僕が射精して、彼女が気持ちよくなって。
ほかには何にもいらないじゃないか。

「それじゃ、ご主人様が私のものになってくれたご褒美。
 腰を動かしてあげます、ね?」

ナナさんの腰がふわりと持ち上がり、深く下ろされる。何度も、何度も。
そのたびに亀頭が膣壁にぐりぐりとこすりつけられ、快感が肉棒のなかを駆け回る。
腰が持ち上がりきったわずかな瞬間だけ、ほんの少しの空白があって、
その一瞬後にはまた快楽で意識が白く塗りつぶされる。
 
僕は彼女の胸元に顔を埋めて、その匂いを吸い込む。
綿菓子みたいな甘い香りが身体中に広がる。
ナナさんの両腕が僕の背中に回されて、ぎゅうっと抱きしめられる。
ペニスも一緒に彼女のなかで締めつけられて、また僕は射精する。

「あは、また出ましたよ、ご主人様の。
 ……うん、いくらでも出してくださいね。
 私はあなたの夢を叶えるための、エッチな動くお人形さん。
 そう思ってくださっていいんですから」

またペニスが震える。
ぐつぐつと煮詰まった砂糖が詰まってるみたいに、身体のなかが熱い。
ぱちん、と体内で気泡がはじけるたびに、僕は小さく射精する。
そのたびに彼女の腰がうねり、精を一滴残らず吸い取っていく。
 
だんだん、自分がいま射精をこらえているのか、
それとも出している最中なのかさえ曖昧になっていく。
とく、とく、と精液を押し出すリズムのなかで意識が遠のく。
終わることなく射精しながら、僕はそっと目を閉じた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
…………何度目かわからない射精のなか、どこかで柱時計が鳴った。
時計の鐘は低い音で7回鳴った。
7という数字が、なにか意識の隅に引っかかった。
数字、というのはとても意味のあるものだったような、そんな気がした。

……でも、やっぱり気のせいだった。
ナナさんの楽しそうな声が、僕のよけいな意識をかき消してくれる。
自分の肌も、衣服も、もちろんナナさんもすべては粘液にまみれていた。
どこに触れても、ぬるぬるとした感触だけが残る。
その気持ち良さのほかには、なんにも残らない。

なにもかもが溶けていく。
夢のなかへと落ちていく。

END