すてきなおくすり

狭い病室で小さな丸椅子に座り、
ノートパソコンのキーボードを叩く。
消灯時間を過ぎた病棟はとても静かで、
タイプ音がやけに大きく聞こえる。

ここは患者のいない空き部屋で、
僕は医局を追い出された医師だった。
そしていま作っているのは内部告発の資料。
この病院がどんなに腐敗してるかが詳しく書いてある。

賄賂なんて当たり前。
患者の同意なしに新薬を試すのも当然。
態度の悪い患者を早死にさせることだって
平気な顔で実行してる。

……許せなかった。
だから僕は声を上げた。批判をした。
そして反逆者として目をつけられた。

患者のカルテを消される、嘘のシフト表を渡される
他人の手術ミスが僕のせいにされる。
そんなことが日常茶飯事になった。

だからといって、僕は諦めようとは思ってない。
自分ひとりでも正しいことを成し遂げてみせる。
そのためにいまもキーを叩いてる。
 
 
 
     * * *
 
 
 
「わぁ……なんか難しそう」

背後からかかった声に驚いて振り返る。
パジャマを着た女の子が立っていた。
いつのまにかドアを開けて入ってきたみたいだ。
それと、この子には見覚えがあった。

「悠子ちゃん……?」

この女の子は、以前僕が担当していた患者だった。
呼吸器系の病気で、結構長く入院してる。
なかなか学校に行けないことを、いつも残念がってた。

「あ、嬉しいなぁ……ちゃんと覚えててくれたんだ。
 こっそり夜中の散歩してたら物音が聞こえたんで
 入ってきちゃいました。
 センセ、こんなところでお仕事?」

「あ…これは見ないように」

画面を覗き込まれてるのに気づいて、
ノートパソコンの蓋を閉じる。
周囲に散乱している資料もかき集める。

「隠すなんてあやしいなー。
 ひょっとして…えっちなの見てたりして」

耳元で囁くように言われる。
くすくすという笑いと一緒に吐息がかかって
耳の後ろがくすぐったい。

「こら……先生をからかわない。
 これはそういうのじゃなくて」

どうごまかそうかと考えたところで、
急に背中にぐっと彼女の体重がかかった。
かすかな胸のふくらみを背中に感じる。

「そういうのじゃなくて
 内部告発の資料、なんですよね?」

悠子ちゃんの言葉と同時に、
首筋に小さな痛みが走った。
なにか尖ったものを突きつけられた感触。
まるで……注射針みたいな。

「動いちゃだめですよ、センセ。
 変なところに刺さったら、
 死んじゃうかもしれませんから」

「………悠子…ちゃん……?」

かろうじて声をかけるけど、
彼女はなにも答えない。
首筋に当たる針の力が強くなる。
皮膚を貫いて、肉にめり込む感触。

「お注射の時間、ですよ」

針がさらに深く突き刺さる。
血管に針先が食い込んでいく。

「………!」

とっさに抵抗しようとして、
でもそれより早く悠子ちゃんの手が
僕の両目を塞いだ。
視界を奪われて、一瞬動きが止まる。

「だから動いちゃだめですよ。
 大丈夫。これは素敵なお薬なんですから」

冷たい液体が、血管のなかに注ぎ込まれる。
それから注射針がゆっくり引き抜かれる。

「なにを……したの?
 それに…どうしてこの資料のこと……」

「……質問がいっぱいあるんですね、センセ。
 でも難しいことはいいじゃないですか。
 それよりもっと楽しいことをしましょう?」

空になった注射器が床に転がる。
かわりにあいた両手が…僕の股間に伸びてくる。
ベルトの留め金が手際よく外されていく。

「ちょっと……なにして…」

「なにって…言わなくても分かりますよね。
 センセだって嫌がってないじゃないですか」

抵抗しようと思った。
だけど身体に力が入らない。
……違う。そうじゃない。
彼女に抵抗することを、心が拒んでる。

背中に当たる胸のふくらみが、
さっきよりいっそう柔らかく感じる。
悠子ちゃんの髪の毛が首筋を撫でるたびに
ぞくりと身体が震える。

「幸せそうな顔ですね、センセ」

ジッパーが引きおろされていく。
金具をつまんでいる指のほっそりした感じや
白くてなめらかな肌が妙に淫らに見える。

ピンクのパジャマの袖がひらひら揺れる。
光沢のある生地がてかてか光る。
それを見てるだけで頭がふわふわしてくる…。

「ん、出てきた……。
 くす……なんだ、もう大きくなってるじゃないですか」

言われたとおり、ペニスはすっかり勃起していた。
ひらひら揺れる袖が、亀頭にときおり当たるだけで
口の中によだれが自然と湧いてくる。

耳元に息をかけられるたびに、身体が小さく震える。
吐息のぬるく湿った感じが心地よくて仕方ない。
シャンプーと体臭の入りまじったような
甘くてやらしい香りが部屋に立ち込めてる。
なんていい匂いなんだろう……。

性的な感覚が膨れ上がってる。
これはたぶんさっきの薬のせいで、
そして誰かの罠だって分かってた。
だから抵抗しなきゃいけない。逃げなきゃいけない。
なのに……なのに………。

「なんにも言わなくても分かりますよ……。
 触ってほしくてたまらないんでしょう?
 いいですよ……期待に応えてあげます」

大きくなったペニスに、
悠子ちゃんの指がまとわりつく。
すべすべの指の腹が竿を這い回る。
あっというまにカウパーが溢れてくる。

尿道口から溢れたカウパーを指先がすくいとり、
指のあいだに絡めていく。
透明な粘液にまみれた手のひらが、
蛍光灯の光にあたってきらきらと光る。

「ふふ……ぬるぬるになっちゃいましたね。
 だめなんですよ、センセ。
 患者さんの身体に欲情するなんて」

そうだ……この子は入院患者なんだ。
いつもベッドに横になっていた彼女を思い出す。
可愛い子だな、とは前から思ってた。
その女の子の手でしごかれるなんて……。

「ん……また大きくなりましたよ?
 自分の立場を思い出して、
 それで反省するどころか興奮してるんですか?
 悪い先生ですね…」

悠子ちゃんはくすくすと笑いながら、
カウパーにまみれた手でペニスをさする。
彼女の体温でぬるくなった粘液が
亀頭や竿をべとべとに汚していく。

「ん、ひくひくって動いてますね。
 女の子の手でそうっと撫でられるだけで
 もう出しちゃいそうなんですか?」

彼女の言うとおりだった。
ゆっくりペニスを指でなぞられてる。
それだけでもう達してしまいそうだった。
だけど…出すわけには………。

「あ、目をぎゅってつぶって我慢ですか?
 偉いですね、センセ。
 誘惑に負けまいと一生懸命」

目をつぶっただけじゃない。
頬肉を噛んで、痛みで快感を打ち消す。
それでも、気を抜くと射精してしまいそうだった。

「でもね、センセ。どうして我慢するんです?
 本当は早く出してしまいたいんでしょう?
 だから抵抗しないんですよね。
 上辺だけ良い人ぶるのはやめてください。
 一回出して、楽になったらいいじゃないですか。
 すっきりしてから私を振り払えばいいじゃないですか」

そんなの……間違ってる。
でも……間違ってるけど……けど……
それが一番いいのかも……しれない。

射精しても……問題なんてない。
この子を妊娠させるわけでもないし…
誰かを傷つけるわけでもない……。
悪いことなんて……なんにもない……。

「まだ難しく考えてるんですか?
 じゃあ……こうしちゃいます」

僕の頬にあたたかさが広がる。
悠子ちゃんがほっぺたをこすりつけてるんだと
目を閉じたままでも分かってしまう。

ほっぺがすりすりとこすりつけられる。
吐息が僕の唇に吹きかかる。
身体の力が抜けていく。

頬をこすりつけるのに合わせるように、
手のひらがペニスにきゅうっと押しつけられる。
ペニスの根元が一際大きく震える…!

「………っ…ぁ……あっ…!」

射精の直前、亀頭が両手で優しく包まれるのを感じた。
その柔らかい温もりのなかに、精液が放たれていく。
びゅる…びゅるっ…と、尿道を精液が流れていく音が
とてもくっきり聞こえる……。
 
 
 
「わ……いっぱい出ましたね、センセ。
 ほら、自分が出したものぐらいちゃんと見てください」

甘えた犬のように鼻先を僕の頬にこすりつけながら
悠子ちゃんが言う。
つられるように目を開けると、彼女の両手いっぱいに
白くて濁ったものが広がっていた。

すくいきれなかった精液が指のあいだから垂れ落ちる。
一部は手のひらから手首に流れて、
パジャマの袖をしずかに汚していく。

「患者さんにしごかれて出しちゃって、
 みっともないですね、センセ」

「……ぁ……はぁ………どう…して…?
 なんでこんなこと……。
 もしかして……誰かに言われたの?
 でもだめだよ、こんなこと……」

呼吸を必死に整えながら、それでも問いかける。

「ん……出してすっきりした途端、お説教ですか?
 偽善者面するのも大変ですね、センセ」

その声はひどく冷たかった。
軽蔑するというよりも、呆れてるという感じに近い。
どうしようもない屑を相手にするような調子。

「まぁ……でもいいですよ。
 いい人ぶるのもこれが最後ですから」

「どう……ぃ…ぅ………うぁ…」

言葉が途中で途切れる。

「…っぁ……あぁ…ぁ………ああぁぁぁっ!」

頭のなかがどうしようもなく熱い。
頭蓋骨のなかに熱く溶けた鉄が流し込まれるような。
熱い。焼ける。熱い。熱い。

「ああ、やっと効果が出たんですね。
 射精直後に作用するって聞いてたけど
 少し時間差がありますね。
 あとでちゃんと報告しとかないと」

「…こ、れは……なに……ぁ…あ…っ…」

「さっき先生に注射したお薬の効果ですよ。
 たぶん先生、媚薬とか催淫剤とか、
 そういうものだと思ってたんですよね。
 でも違うんです。それはたんなる副作用。
 本当の効果は、脳を溶かすんです」

「脳を……溶か…す…?」

「ああ、もちろん溶かすっていうのは比喩で
 本当に溶けるわけじゃないんですけど。
 ただ、効果としては似たようなものらしいです。
 前頭葉や海馬がどうとか、プロラクチンの働きがどうとか
 なんかそういうのらしいですけど……私にはよく分かんないので。
 きっと先生なら分かるんでしょうけど……もういいですよね。
 どうせ脳みそ溶けちゃうんですし」

そんな薬はありえない。
そう思う自分がいる。
現にこうやってちゃんと思考できてるじゃないか。

「ああ、それから。
 この薬、射精するたびに作用するらしいので。
 出せば出すほど、どんどん脳が溶けちゃいますよ」

悠子ちゃんの身体が僕の背中から離れる。
ぬくもりが消えるのを惜しむようにして、
身体ごと後ろを振り向いてしまう。

僕のことを見て、彼女が薄く笑う。
それから精液まみれの手のひらを
自分の胸元になすりつけて見せる。
ピンクの布地に、どろどろの精液が付着する。

「射精するほどお馬鹿さんになる。
 だったら射精せずにいればいい。
 そんなふうに思ってませんか?
 でも……無理ですよ」

今度は下半身に人差し指を伸ばす。
精液が一筋、股間部分を汚していく。

それを見ているだけで、
またペニスが大きくなりはじめる…。
自分が悠子ちゃんのあそこに
ペニスを突っ込んで気持ちよく腰を振る。
そんなイメージが頭のなかに膨れ上がる。

「もうすでに先生の脳は少し溶けてますから。
 人間としてとっても大切なこと、
 なにかを成し遂げるために我慢をする、
 そういう機能が壊れはじめてるんです。
 目の前の欲望に忠実なお猿さんになりはじめてる」

パジャマのボタンが一つ外される。
胸元が広がり、鎖骨のラインがかすかにのぞく。

「ほら、もう私の胸元が気になって仕方ない。
 目を逸らすことさえできない。そうですよね?」

彼女の指が、次のボタンにかかっては
数秒いじくってからまた離れる。

頭の中の熱はもうほとんど消えていた。
いまはもう、ボタンを外してくれるのかどうか
そのことしか考えられない。

「ふふ、必死に見つめてちゃって……。
 そんなに外してほしいんですか?
 じゃあ、少しだけサービスですよ…」

ボタンがゆっくりとまた外される。
悠子ちゃんはスレンダーな体型だけど
それでもゆるやかな谷間が見える。

「ここを汚したくてたまらないんでしょう?
 ふふ……させてあげませんけど」

彼女が自分の指を胸のあいだに差し込む。
白い粘液がゆるやかな谷間を汚す。

あの白い谷間に精液をぶちまけたい。
パジャマと肌がくっついて離れなくなるぐらい
どろどろに汚してしまいたい…。

ペニスがびくびくと震える。
もう……しごきたくてたまらなかった。
目の前で悠子ちゃんを視姦しながら
オナニーしたくてたまらない。

右手が痙攣したみたいに震える。
ペニスに触れたくてたまらない。
その衝動を必死に押さえ込む。
そんなのは彼女の思うつぼだ。

もう一度出したら、もっと歯止めがきかなくなる。
理性がさらに消えてしまう。
それはだめだ……だめだ………。

「思ったより頑張るんですね、センセ。
 きっとすぐにオナニーにふけっちゃうと思ったのに。
 じゃあ……サービスを増やしましょうか」

パジャマのズボンに手がかけられて、
わずかにずりさげられる。
白いショーツがかすかに見える。
上半身のパジャマの両裾のあいだから
小さなリボンがのぞいてる。

「ん……右手ががくがく震えてますよ。
 私のパンツが見れてそんなに嬉しいですか?
 患者さんの下着で興奮するなんて
 だめなお医者さんですね」

ペニスが根元から大きく何度も跳ねる。
尿道口からカウパーがひとりでに溢れ出し
竿をゆっくりと垂れ落ちていく。
こめかみで血管がどくどくと鳴る。

「もう限界なんでしょう。
 ほら、このままなんてしんどいですよ?
 もう一回出して楽になって
 それからすぐに逃げればいいじゃないですか。
 私に欲情してしまう前に……ね?」

椅子に座った僕の顔をのぞき込むように
悠子ちゃんが前かがみになる。
ボタンが半ば以上開いたパジャマがたわんで
彼女の胸元がのぞき込めてしまう。

ブラはつけていなかった。
ゆるやかに膨らんだ両胸の先まではっきり見えた。
……気づいたら、ペニスをつかんでいた。

「ふふ、ほんとにはじめちゃいましたね。
 私の乳首が見えて、我慢できなくなりました?」

はだけた胸元がつかまれ、さらに大きく開かれる。
視線がそこから離せない。
右手がペニスを激しく上下にこする。
とてもとても気持ちが良かった。
今までしたどんな自慰より気持ちよかった。

「私のおっぱい見れて、良かったですね。
 でもそんなに興奮するなんて、
 もしかしてずっと見たかったんですか?
 生真面目なお医者さんのふりして
 私のことを診察しながら、
 ずっとおっぱい見たくてしょうがなかったんですか?」

見たかった。ずっと見たかった。
悠子ちゃんの胸が見たかった。

控えめな胸とパジャマのあいだの隙間が
いつも気になって仕方なかった。
乳首が見えるんじゃないかと何度も期待した。
そんな自分を屑だと思いつつ、どうしても見たかった。
それがいま……見えてる。

悠子ちゃんの乳首を見ながら、
そこに裏筋や尿道口をこすりつけることを想像して
そのまま快楽に身を任せる。

「ん……もう出そうなんですね?
 いいですよ、どうぞ出してください。
 脳みそまで精液にして出しちゃいましょうね…」

ペニスの先から精液が勢いよく放たれる。
それが彼女の開いた胸元にまで飛散する。
射精の最中も手が止まらなかった。
何度も何度も、精液が腰の奥から流れ出す。
 
 
 
長い射精が終わると……また頭の中が熱くなる。
頭を抱えるようにして身体を丸めて、その熱と痛みに耐える。

「ん、またお薬が作用してます?
 あ、でも今度はさっきほど痛くなさそうですね」

たしかに、さっきほどの強烈な感じはない。
もしかしたら、多少は抗体ができたのかもしれない。
でも抗体ができるなら…………それなら……?
……抗体って………どういう働きをするんだった?

「センセ、どうしたんですか?
 いっぱい射精して幸せそうな顔だったのに
 急に怯えた顔になって……。
 なにか思い出せないことでもありました?」

悠子ちゃんが薄笑いを浮かべる。

「そうやって少しずつ先生の脳は溶けるんです。
 出せば出すほどおかしくなって……。
 最後には……どうなるんでしょうね?」

「……ぁ……ぁ…」

「なのに先生は逃げられない。
 ほら、また大きくできるはずですよ?」

ペニスにふぅっ…と息が吹きかけられる。
その吐息だけで、また性器がぴくりと反応する。
ゆっくりとだけれど、また大きくなっていく。
目の前の悠子ちゃんからふんわりいい匂いがして
また自慰行為にふけりたくなる。

「さ、またしてもいいですよ?
 何度だってしちゃいましょう。
 そのぶん早く廃人になりますけどね…」

「……ぅ……あ……ぁ…ああぁぁ…っ…!」

思わず両手を振り回した。
壁や後ろのデスクに無茶苦茶に両手をぶつける。
そうしないと今にもペニスをしごきそうだった。
骨にひびが入りそうなほどの痛みだったけど
それでも何度も打ちつけた。

悠子ちゃんはそんな僕を少し遠巻きに見てから
今度はけたけたと笑い出した。

「あははっ…センセ、そんなに怖いんですか。
 自分がお馬鹿さんになっちゃうのが嫌ですか。
 ふふっ、でもそれがもう馬鹿なのに。
 そんな怪我して、どうやって私から逃げるんです?
 これでもう絶対逃げられませんよ?」

言われて、やっと状況を理解する。
僕の両手は赤く変色して膨れはじめていた。
動きを止めた途端、痛みがいっそうひどくなる。
こんな手じゃ、女の子ひとりにさえ抗えない。
馬鹿だ。僕は…馬鹿だ……。

「それじゃあ、お馬鹿な先生の両手のかわりに
 今度は私がしてあげますね。
 特別サービスだから、ちゃんと感謝してくださいね」

悠子ちゃんがパジャマのズボンを脱ぐ。
白い太ももが露わになる。
触ったらやわらかいんだろうな……。
頬も思いきりこすりつけたい……。

こんな状況だっていうのにそんな想像が止められない。
いっそ自分の舌を噛み切って死にたかった。

だけど死んだら、もう射精できない……。
違う……病院の不正を告発できない……。
……告発……って、どういう意味だった…?
くそ……とにかくあいつらが悪いって証明できない…。

悠子ちゃんが僕の両脚をまたぐように立ち、
ゆっくりと腰を下ろしてくる。
亀頭がショーツの裾に引っかかり、布地をめくり上げる。
薄い陰毛の向こうに割れ目が見える。
腰が落ちる。

「どうしたんですか、センセ。
 まるで私を恨むような目で見て。
 とっても気持ちのいいことしてもらって
 それでも不満があるんですか?」

ペニスは彼女の下半身と下着のあいだに収まってた。
悠子ちゃんのあそこには、少しも入ってない。

「まさかセックスできると思ってたんですか?
 くすっ……だめですよ」」

僕の両脚の上で、彼女が腰を前後に振る。
そのたびにあったかい肉が竿や裏筋に押しつけられる。
悔しいけれど、その感触がとても心地いい。

「いっぱい押しつけてあげますから。
 たっぷりと出してくださいね」

僕の首に手が回され、身体が引き寄せられる。
裏筋に陰毛がくっつき、カリ首と布地がこすれる。
射精感がすぐに駆け上ってくる。
このまま下着のなかにぶちまけてしまいたい。
その衝動を必死に押し殺す。

どうすればいい。
どうやって逃げれば。
ああ……あったかくてやわらかい。
この彼女を振り払わないと。
こんな手で?
どぱって出したら、気持ちいいだろうな……。

「こんなこともできちゃいますよ?」

ショーツの上から、彼女の指が
亀頭をぐにぐにと揉みこむように押しつぶす。
裏筋がいっそう深く肉に埋もれる。
射精感が跳ね上がる。

「……ぁ……ん…ぐ………ぁ…っ…!」

とっさに自分の左腕を持ち上げ、
上腕部に噛みついた。
肉を食いちぎりそうなほどに強く噛み
快楽から逃れる。

その拍子に、ノートパソコンが目に入る。
そうだ。そうなんだ。
僕はこれを完成させないと。
じゃないと、僕が破滅するだけじゃない。
病院のみんなが助けられなくなる。

「先生、本当に頑張りますね。
 まさか噛みついてまで我慢するなんて。
 ふふ、ちょっと尊敬しちゃいます」

「こんなの……やめよう。
 僕は……しなきゃいけないことがある。
 この病院の患者を…助けたい。
 だから……」

「先生……」

悠子ちゃんの瞳が、ちょっとうるんだ気がした。
僕の言葉に押されるようにして腰を浮かせる。
ペニスがショーツから抜け落ちかけて。

「じゃあ射精してください」

腰がまた落ちた。
今度は、彼女の膣にペニスが沈んだ。
竿がぬるぬるの肉に押し潰される。

「……ぁ…っ…! どう…して……」

「最初に言ったじゃないですか。
 先生は難しく考えずに射精すればいいって。
 どうせ、先生には私は助けられないんですから」

腰が小さく持ち上がってはすとんと落とされる。
そのたびに膣壁がごりごりと性器をこする。
じゅぽっ…じゅぽっ…と大きな水音が響く。

悠子ちゃんが腰をうねらせるたびに、
膣肉が生き物みたいにペニスにむらがる。
裏筋の隙間までみっちり愛液と肉に侵される。
抵抗しようのない射精感がせり上がる。

「センセ、最後に教えてあげましょうか。
 どうして私がこんなことをしたのか。
 私はね、いまの担当の先生から言われたんです。
 協力しなかったら殺すよって。
 今度発作が起きたときに、
 人工呼吸器のトラブルを装って殺されるんです。
 そんなの嫌なんです」

「そんな……こと……」

「信じられないですか? でも本当ですよ。
 それとも、そんなことさせない、とでも?
 でも無理ですよ。
 所詮、先生は立場の弱い一人の医者なんですから。
 結局はなんにもできないんです。
 ……本当に、本当に私たちを助けてくれるなら。
 なにも言わずに黙って告発してくれればよかったのに。
 中途半端な正義感を振り回して、声を上げて。
 そんな偽善者には誰も救えません」

頭と腰の奥で、
なにかが溶けて流れ出すのを感じた。

肉のひだが裏筋をこすり上げる。
そのぞくぞくとする感触に身体を委ねる。
頭を彼女の胸元にうずめる。
甘くてやらしい匂いがいっぱいに広がる。

「だからぜんぶ諦めましょう。
 かわりにせめて……幸せに狂ってください」

とくん…どくんっ…と精液が彼女のなかに吐き出される。
腰の奥が収縮するたびに、幸福感が頭いっぱいに広がる。
なんて気持ちいいんだろう……。

永遠にずっとこうしていたい。
むずかしいことなんて考えずに、白いのを出して。
なんにもかんがえずに、このまま……。

「いっぱい出てますね……でもまだまだ。
 もっと出していいんですよ……」

そのこえをききながら、ぼくはわらう。
とってもいいきぶんで、とってもきもちがよくて。
もっとだそう。いっぱいきもちよくなろう。
ずっと、ずっと…………。
 
 
 
     * * *
 
 
 
……数時間後、悠子はゆっくりと彼の身体から離れる。
彼はそれでもまだすがりついてきた。

数え切れないぐらい射精したはずなのに、
まだペニスは固さを保っていた。
これも薬の副作用なのかもしれない。

「先生ごめんなさい……さすがにもう行かないと。
 ほら、最後にここに出していいですよ」

ペニスに太ももを押しつけると、
十秒もしないうちに精液がとろとろと流れ出す。
彼は幸せそうな顔をして、
でも悠子を逃がすまいとパジャマの裾をつかんでる。

「だめですよ、センセ。
 ……あ、そうだ。じゃあこれ置いていきます」

脱ぎ捨ててったズボンのポケットから
一枚の写真を取り出す。
悠子自身の姿が写ったスナップ写真だった。
どうしても離してくれないときは、
これを渡すように言われていた。

写真をベッドの上に置くと、
彼はそれを見ながらベッドに腰をこすりつけて
動物みたいに自慰をはじめた。
その後ろ姿に声をかける。

「ね、センセ。ひとつ言い忘れてたことがあるんですけど。
 私、脅されてたのは本当ですけど、それだけじゃないんです。
 これが上手くいったらお金がもらえる。
 そういう契約だったんです。黙っててごめんなさい。
 でもちゃんと最後に真実を話したんだから……いいですよね」

パジャマのズボンを履き、病室の外に向かう。

「それじゃあ……さようなら」

END