ずっと一緒に(前編)

「兄様、おやすみなさい」

芹菜(せりな)が自分の部屋のドアの前で立ち止まり、
それから僕にむけて、ちょこんと頭を下げてお辞儀をする。

まだ僕のことをどう呼んでいいか分からないのか、
兄様なんていう、丁寧さと親しさの中間のような呼び方をする、
僕に突然できた、可愛らしい義妹。

おやすみ、と僕も返事をしながら彼女の姿を眺める。
長い黒髪が、薄桃色のパジャマの上を流れてる。
さらさらの髪の毛が胸元のあたりでだけかすかに曲線を描いて、
それなりに膨らみはじめた胸の形を示してる。

半ば無意識のうちに、視線がさらに下へと滑り落ちてしまう。
すらりとした太ももが、つるつるしたピンク色の布地に包まれてる。
それから、その太もものあいだ……芹菜の股間のあたりにも
視線が吸い寄せられてしまう。
そのパジャマの薄い布地の向こう側を想像してしまう。
芹菜の秘所にいつもぴったりとくっついている下着、
それに僕の性器をこすりつけて、どろどろに汚していく。
その様子を想像してしまう……思い出してしまう。

そうだ……僕は実際に毎日、そんな最低の行為をしてる。
彼女の下着を洗い場から盗み出し、ペニスにこすりつけ、
そして精液をどくどくと吐き出す。
一昨日も、昨日も、そして今日もきっと……。
 
 
 
     * * *
 
 
 
「……ぁ………は…ぁ……」

荒い呼吸がこぼれる。息が苦しい。
だけど、手が止まらない。
ペニスに巻きつけた白いショーツを動かすたびに、
しゅるしゅる…っと、なめらかな布ずれの音がして
同時に脳みそに甘い甘い痺れが走る。

誰かに見られてないだろうかと、
ベッドから顔を上げ、ちらりと室内を見渡してしまう。
だけど、当たり前だけど誰もいやしない。
十畳はゆうに超える広い部屋のなかで
僕の醜い吐息と、ショーツが擦れる音だけが響く。

肌触りのよいシルクの布地が、
カリ首のところを、しゅるり…と撫でていく。
それだけで背筋がびくっと跳ねてしまう。
ペニスの先から、透明な液体がつぷっ…と溢れる。

「……っ……は…っ……はっ…はっ…」

呼吸がさらに早くなっていく。
酸素が足りなくて苦しい。
だけど、身体が酸素よりも快楽を求めてしまう。
芹菜の下着でペニスを擦るのが
どうしようもなく気持ちいい……。

こぼれたカウパーがショーツを汚してく。
水を含んでかすかにざらついた布地と、
まだ汚れていないすべすべの布地が
交互に亀頭を刺激する。

下着の感触をねだるように
ペニスが根元から何度もひくつく。
ペニスが持ち上がるたびに、竿と亀頭にショーツが絡みついて
ぞくっと寒気にも似た心地良さが走る。

さらさらのシルクがペニスをさするたびに
芹菜の笑顔を思い出してしまう。
なのに、その彼女の下着を洗面所から盗み出して
僕は自慰行為の道具にしてる……。
罪悪感が身体にまとわりついて、
だけど、それすらも後ろ暗い快感になってしまう。

唇の端からよだれがこぼれて、
ペニスを包んでるショーツの上にぽたぽた落ちる。
すっかりカウパーまみれになったショーツが、
ペニスに絡んでくちゅくちゅと音を立てる。
あの清楚な芹菜の下着をこんな淫らな行為に使ってる。
そう考えるだけで、ペニスがひくついて止まらない…っ…。

「……あ……ぁ…っ………」

腰の奥がひときわ大きく蠢いて、
それからペニス全体がぴんと張り詰める。
精液が腰の奥から流れ出してくるのが分かる。
もうすぐ……もうすぐ芹菜の下着を汚してしまう。
明日以降も彼女が穿いていくであろうショーツが
僕の体液で……どろどろ…に……ぁ…ぁ……あ…ぁぁ…っ…!

どぷどぷ…っ…と重く粘ついた精液が溢れる。
気持ちよさで全身が小刻みに震えて止まらない。
芹菜のショーツのを思いっきり亀頭の先に押し当てて、
それでもそれを勢いよく押しのけるように
ゼリーの塊みたいに濃厚な精液がこぼれてくる……。

「………ひ……ぁ……っ……」

快感が大きすぎて、上手く息ができない。
でも、まだ射精が終わらない。
どぷり…どぽり…っ…と白く濁った液体を垂れ流す。
視界が白く霞むような錯覚を覚えながら、
それでも必死に手を動かしつづける。
唾液がまた滴り落ちて、カウパーと精液まみれのショーツを汚す。
芹菜に抱きついて腰を降るようなあさましい想像をしながら
ぐちゅぐちゅと音を立ててペニスを扱いて。

「……ぁ……あ…ぁぁ……っ…!」

腰の奥で何かが押しつぶされたみたいに、
また大量の精液が溢れだす。
あたたかく粘ついた液体が、
妹の下着の中にじわじわと流れ込んでいくのが分かる。
あぁ……僕は……また……こんなこと…を………。
 
 
 
射精の余韻が終わる頃になって、
やっと呼吸が少しずつ正常に戻りはじめる。

「………ぁ………は……ぁ………は…ぁ……」

声にならない叫びを上げていたせいだろうか、
舌の付け根が引きつったように痛む。
過呼吸めいた仕草で消耗した肺も、ずきずきと痛みを訴える。
そして最後に心臓がきりきりと疼く。

「………ぅ…あ……っ……」

ベッドの上に座ったまま、小さくうずくまる。
僕にとっては慣れ親しんだ痛みが身体の中で暴れ回る。
思わず今しがた汚してしまったショーツを握り込むと、
途端にじゅぶっ…と精液が溢れだす。

その生ぬるい感触で、自分の行為の醜さを自覚する。
ついで、いったいどれだけの精液を吐き出してしまったのかと
背筋が冷たくなる。
まるで命を絞りだしたような大量の射精。
いや、僕にとってはそれは比喩表現なんかじゃない。
本当に……命を削ってるんだ………。
 
 
 
     * * *
 
 
 
寝巻きのポケットに芹菜の下着を潜ませたまま、薄暗い廊下を歩く。 
絨毯の上を歩く、ぽす、ぽす、という気の抜けたような音が響く。
無駄に長い廊下だった。

僕はこの家が……この建物自体が昔から嫌いだった。
屋敷と呼んでも差し支えないぐらいの豪華な館。
でも、物心ついたときから父と二人暮らしで、
そのうえ身体の弱い僕にとっては、嫌がらせとしか思えなかった。

先月に父が再婚して、義母と義妹が増えて四人になって。
それで少しは家の中の空虚さも薄れたように感じる。
だけど、それでもやっぱり無駄な広さとしか僕には思えない。
大きな門も、広い庭も、広い部屋も、僕にとっては拷問でしかない。
こんな……自慰行為に耽ることすら医者に止められているような、
みっともない身体の僕にとっては。

「…………ぅ……」

また心臓がズキリと痛んだ。
さっきの射精直後よりも強い、心臓に尖った物がめり込むような感覚。
普段の痛みとは違う、異質な痛み。
ズキリ、とまた痛んで、それから断続的に疼痛が走る。

「…………ぐ……」

目まいがして、思わず壁に手をついた。
どん、と思ったよりも大きな音がする。
壁じゃない。これはドアだ。この部屋は……。

「…………兄様?」

ドアの隙間から顔を出したのは芹菜だった。
大きな物音に驚いたのか、
ほそくドアを開けたままこちらを見つめてる。
その顔が物音に怯えていた表情から、
心配と焦りの入り混じった顔に変わっていく。

「兄様……どうしたんですか?
 もしかして、身体の調子が悪いんじゃ……」

大丈夫、と言おうとした瞬間、
また心臓が針で刺されたように痛んで
思わず、かふっ…と息を吐く。
膝の力が抜けて、壁に手をついて身体を支える。
芹菜がドアを大きく開ける。
そのまま半ば倒れ込むようにして部屋に入り、
導かれるままに、よたよたとベッドに近づいて。
そこで……意識が沈んだ。
 
 
 
     * * *
 
 
 
「……………ぅ……」

心臓が鼓動のたびに小さく痛みを訴える。
それで目が覚めた。
女の子特有のあまやかな匂いと、見慣れない天井。
すぐに、自分が芹菜の部屋で倒れたんだと思い出す。

「兄様……目が覚めたんですか?
 身体の調子は……どうですかっ…」

テーブルの近くに座っていた芹菜が、たたっと駆け寄ってくる。

「いや……大丈夫だよ。
 ごめんね、心配かけて。もう平気。
 いつものことだから」

頭と身体は横たえたまま、視線だけを彼女に向ける。

「そう……ですか…?」

僕の身体のこと、病気のことは芹菜たちにも伝えてる。
長くてもせいぜいあと十年ぐらいしか生きられないとか、
身体に負担がかかると倒れるとか、そんな概要程度のことだけれど。

「私に気を遣わずに、本当のことを言ってくださいね…?
 それに、もし兄様さえよければ、今夜はここで寝てください。
 部屋まで帰るのだって、危ないですから」

「そうはいかないよ。それじゃ芹菜が寝る場所だって」

「それは………こうすればいいですよね?」

ベッドの縁に膝をかけたかと思うと、
するり…となめらかな動きで芹菜がシーツの上に乗ってくる。
そのまま寄り添うように僕の隣で横になる。
たしかに大きめのセミダブルのベッドだから
二人一緒に眠れないことはないけれど。

「だ、だめだよ…!」

パジャマの首元から、白い肌が少しのぞいてる。
透き通るような綺麗な肌と、
かすかに盛り上がった鎖骨の膨らみが見える。

「くすっ……どうして、だめなんですか?
 一緒に寝たら私、襲われちゃうんでしょうか。
 兄様はそういうこと……私になさるんですか?」

「そんなの……」

しない、と断言できなかった。
彼女の下着を汚していたことを思い出して声が出ない。

「大丈夫ですよ、兄様」

それだけ呟いて、右手を僕の胸の上に置く。
シャツの中ほどのボタンが一つ外される。
芹菜の手が、僕のシャツの中に滑り込んでくる。
すべすべで、つめたくて、とても気持ちがいい。

「私、兄様のこと信じてますから。
 それに……兄様になら」

「え……?」

芹菜の言葉の意味が分からなくて、その続きを待つ。
だけど、彼女は微笑んだまま黙ってしまう。
手のひらが、僕の心臓のある辺りを何度も撫でる。
先ほどの発作で熱を帯びていた身体には、
芹菜のひんやりとした手のひらが心地いい。

「ここに……兄様の心臓があるんですよね。
 うん……トク、トクって動いてるの、わかります。
 いまはもう大丈夫でしょうか……よかった」

芹菜の指が心臓の辺りを何度もさする。
拳を叩きつけられるだけでも止まってしまいかねない、
僕の弱々しい心臓。
それが、きれいな女の子に優しく撫でられてる。
そのことに、背筋が甘く痺れるような快感が走る。

「兄様の身体……あったかい…」

芹菜がさらに身体を寄せる。
そのまま……仰向けになった僕の上半身の上に、
頭を乗せるように寄り添ってくる。
シャンプーの香りがふわりと鼻先をかすめる。

「心臓の音、聞こえるかと思ったんですけれど……
 ドラマや小説みたいには上手く聞こえないですね。
 ふふっ……ちょっと残念です」

猫が甘えるみたいに、芹菜が頬を僕の胸板にこすりつける。
楽しそうに口元をほころばせながら、本当に嬉しそうな表情で。
そのたびに彼女の身体も揺れ動いて、
パジャマ越しにやわらかい感触が伝わってくる。
ゆるやかな乳房の膨らみが、ふにふにと何度も当たる。

いけないと思っているのに、ズボンの中でペニスが膨らみはじめる。
精液をどくどくと吐き出す、あの快感を思い出してしまう。
なんとか意識を逸らそうとするけれど、
でもそれより早く、芹菜が脚を僕に絡めてくる。
ほどよい弾力のある太ももが、僕の腰骨の辺りをくすぐる。
その感触にまたペニスがびくっと跳ねる。
いまにも芹菜の太ももに当たってしまいそうな距離だった。

どうしてこんな状況になってるのか、理解が追いつかない。
それでも、いまここで彼女を跳ねのけないと
理性が崩れ落ちてしまいそうだと、本能的にそう感じる。

「芹菜……ちょっと近づき、すぎ……。
 僕をからかってる、のかな?」

僕の言葉を聞いて、芹菜がはにかむ。

「ふふっ……そう、からかってるんです。
 だってこうしたら、兄様の心臓もちょとはドキドキしてくれるかなって。
 そしたら心臓の音も聞こえるかなって」

芹菜がまた頬をこすりつける。
頭が左右に動くたび、胸元が垣間見える。
少し乱れたパジャマの隙間から、胸の谷間が見えてしまってる。
年齢相応のつつましやかな、でもはっきりと膨らみの分かる芹菜の胸。
そのなだらかな起伏の形が、胸のなかほどまでくっきり見えて。

(…………ぅ…ぁ……)

ペニスがどくんと大きく脈打ち、跳ねる。
パジャマのズボンと下着越しに、芹菜の太ももに亀頭がかすかに触れる。
重なった布地越しにも分かるふくよかな感触、
そしてなにより義妹の太ももに自分の性器で触ってしまった、
その事実に身体が反応してしまう…っ…。

びくっ…びく…っ…!とペニスが何度も跳ねる。
芹菜の太ももの感触をねだるみたいに暴れまわって、
そのたびにかすかな柔らかさが得られる。
でも物足りない。もっと、もっと…!と本能が求めてしまう。

(……ぁ……だめ……だ……)

気を紛らわせようとして目を閉じる。
でも、芹菜の匂いばかりが気になってしまう。
まぶたの裏の暗闇の中で、芹菜の裸を思い浮かべそうになる。
それで慌てて目を開けると、また胸の谷間が視界に入る。
ペニスが痙攣したみたいに小刻みに震える…っ…。

出したい。出してしまいたい。
このままズボンの中ででもいいから、
芹菜の匂いに包まれたまま、谷間を目で犯しながら、
どくどくと思いきり吐き出してしまいたい。

暗い欲求がどんどん湧き上がる。
ペニスが膨らむたびに、芹菜の太ももに触れる。
むにゅっとした柔らかさが理性を溶かしてく。

(……だめ…だ……だめだ…だめだ……っ……。
 もし……ここで射精なんてしたりしたら………)

理性というよりも恐怖で、かろうじて欲望を抑え込む。
射精なんてしたら絶対に芹菜に分かってしまう。
嫌われる。軽蔑される。そんなの嫌だ。
僕は屑だけど、でも、でも嫌だ。嫌だ。
破滅したくない……そんなの……嫌…だ……。

なのに、芹菜がさらに身体を寄せる。
もはやほとんど僕に覆いかぶさっていた。
持ち上げた太ももが、ペニスの上にぴったりと押しつけられる。
竿の裏側に、女の子の柔らかさが広がる。

「芹菜……どい…て…………」

「……どうしてですか?
 私と一緒に寝るの、兄様は嫌いですか?
 それとも……」

芹菜が僕の耳元に顔を寄せる。
吐息を耳の穴に吹きかけるようにしながら、囁く。

「……出ちゃいそうですか?」

「…………!」

一瞬、心臓が止まる。
その隙に芹菜が太ももを離して、
するりと僕のズボンと下着をずり下げる。
それからもう一度、義妹の太ももが押しつけられる。

「……せーえき、出ちゃいそうなんですよね?
 いいですよ、出しちゃっても」

ついで、安堵するように快感が溢れる。
腰が持ち上がる。
芹菜の寝巻きのうっすらとした生地一枚だけを隔てて、
太ももの柔らかさがペニスいっぱいに広がる。
陰嚢が持ち上がり、精液がペニスに流れ込む…!

「……ぁ……あぁぁあ…あああぁぁ……っ…!」

精液がびゅるびゅると吐き出される。
芹菜の脚に押しつけられた狭い空間の中で、
亀頭の周囲がたちまち、あたたかい粘液にまみれる。
ペニスそのものが溶けながら射精しているような異常な気持ちよさ。

「あ……ほんとに出しちゃったんですね、兄様ったら」

射精のあいだも、芹菜が太ももを竿に沿って上下に動かす。
精液が、とくとくとこぼれつづける。
頭のてっぺんから、快感が湧き水みたいに溢れ続ける。
精液が止まらない……止めたく…ない……!

「……ぁ…っ……ぁ…あぁ…っ…」

精液が迸るたびに、心臓が小さく痛む。
だけど、そんなこと気にしてられない。
芹菜の匂いが、柔らかさが、笑顔が……気持ちよくてたまらない……。

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