あの世の誘惑

「え? ここはどこかって? 見てわからない?」

ボクの質問に、目の前のお姉さんは首をかしげた。
黒いドレスから白い首筋が強調されて、内心でどきりとする。
こんなきれいな年上のお姉さんと話をするなんて、はじめてのことだったから。

でも、今はそれよりもここがどこなのか、を知らなくちゃいけない。
あたりは見渡すかぎり、丈の短い草が生えた草原だった。
それからボクとお姉さんの向こう側に、とても大きな川が流れている。

「ここはね、冥府の川。
アナタ、死んじゃったのよ」

え、と声を出すよりも早く、なにがあったのかを思い出した。
そうだ……ボクはマンションのベランダから落ちて、それで……死んだ?

「たまにいるのよね。自分が死んだってこともわからない人。
ほら、アナタの身体、触ることなんて………あら?」

お姉さんはどうやら、ボクの身体はもう触れなくなってる、って
言いたかったみたいだった。
でも、お姉さんの指は、ボクの唇にしっかりと触れていた。
そのあたたかさに、またどきっとする。

「あなた、死んでないわね」

「……じゃ、じゃあ生きかえれるんですか?」

「そうね。このまま後ろを向いて、そうしてずうっと歩いていったら
たぶん生き返れるわね」

やった!と思って後ろを振り返る。
たしかに、草原のずうっと向こうにドアのようなものが見える。

「でも、行かせてあげない」

驚いて向き直ったボクの唇に、またお姉さんの指が触れた。
そして今度は、そのままほっぺたの上を、円を描くようにくるくるとなぞる。
指はびっくりするぐらいなめらかで、つい気持ちよくて声がもれた。

「んっ……な、なんで、行かせて、くれないんですか?」

「だってアナタが生き返っちゃったら、私のノルマが減らないもの。
私は冥府の川の渡し守。
一週間に一度は、必ず誰かを運ばないと仕事をクビになっちゃうの。
だから、返してあげない」

「そんな……だってボク、生きてるのに…」

「だぁいじょうぶ」とお姉さんは優しく笑った。
「もうすぐ死んじゃうわ」

お姉さんの指が、するすると頬から下につたっていって、ボクの首筋をなぞる。
それといっしょに、もう一方の手でお姉さんは、ボクの…股間をつついた。
ズボンの上からだったけど、女の人にそんなことされたのはじめてで、
思わずおちんちんがピクリと反応する。

「ほら、元気ね。ちゃあんと生きてる証拠。
でもね、ここから元気を吐き出すと、そのうちアナタは死んじゃうの。
そしたら私の舟で、ゆっくり向こう側へ送ってあげる。
……元気を吐き出すってわかる? 射精するってことよ?
おちんちんから、ぴゅーぴゅーって精液を噴き出すの」

射精、精液、おちんちん、そんなエッチな単語を年上の、
それもこんな美人のお姉さんから聞くのははじめてで、
ボクのあそこはどんどん硬くなっていく。

「あらあら、ホントに元気。
ねえ、どう? 気持ち良いことしてみたくない?
どうせ生き返っても、こんな楽しいことできないわよ」

そんなこと、という一言が、ボクが言えた精一杯の言葉だった。
そんなことない、生き返ればきっと楽しいことがいっぱいある、と言いたかったのだ。
だけど、ボクの気持ちを見透かしてか、お姉さんはにやっと笑った。

「無駄よ。
生き返ってもアナタみたいな変態は、どうせ女の人に相手にしてもらえないもの。
ね? 下着を盗もうとしてベランダから落ちちゃった、変態さぁん?」

「……!」

「なんで知ってるのかって?
私たちはね、その人がどうやってここにやって来たのか、分かるようになってるの。
だからよぅく知ってるの。
キミがお隣のお姉さんのパンティを盗もうとしてたことも。
それに……ふふ」

妖しく笑って、お姉さんはドレスの上から、自分の股間をなぞった。

「そのパンティで、キミがなにをしようとしてたのかも。
ほら。
見たかったんでしょ? 触りたかったんでしょ?
頬ずりしたかったんでしょ?
それと……アソコをこすりつけたかったんでしょう?」

お姉さんに見つめられて、ボクは身動きできなかった。
それで気がついたら、じぃぃぃっ、という小さな音がして、
ズボンを脱がされてた。

勃起したおちんちんが、空気に触れてひんやりする。
でもその感触はすぐに消えてしまう。
だって……お姉さんのアソコが押しつけられたから。

黒くてさらさらした素材のドレスごしに、ペニスがお姉さんの股に密着する。
やわらかい感触と、ほんのりしたあたたかさが伝わってきて、
いよいよペニスが固くなっていく。

「こうしたかったのよね。
……ちがう?
ああ、ホントはちゃんとパンツにこすりつけたかった?
でも、ざぁんねん。それはおあずけ」

お姉さんが身体をゆすると、ペニスがこすれて、甘く痺れるような感じが根元から伝わってくる。

「ほら、こっちも」

おっぱいも服ごしにボクの頬に押しつけられる。
やわらかな肉の感触に、思わず顔をうずめたくなる。
でもなんだか恐くて、そんなことをしたら怒られそうで、お姉さんの顔を盗み見る。
そしたらお姉さんは、にっこりと優しく微笑んだ。

「いいのよ。好きにして」

その許しを得た途端、ボクはぽふっと頭を投げ出すようにして、おっぱいに顔をうずめていた。
まるで吸いついているみたいに、ボクはじっとその感触を確かめる。
女の人の、エッチなお姉さんのおっぱいにうずまって、それから……。

今度はペニスが刺激される。
ゆっくりと、ほんの数センチだけお姉さんが腰を動かす。
そのたびにおちんちんがこすれて、さらさらした布の感触が、まるでペニスのなかを直接はい回ってるみたいで、気持ちよくて、それで、それで……。

「もう射精したい?
いいのよ、出しても。いくらでも、好きなだけ。
……でも忘れないでね。出したら、もう戻れない。アナタは死んじゃうの」

死んじゃう、と言われているのに、動けない。
その優しい声が聞いていられるなら、いっそ、このまま、ずっと……ああ、なにも考えられない。

「ピクピクしてるのね。もう出そう?
死んじゃってもいいの?
生き返ったら、ひょっとしたらもっとキモチイイコトできるかもしれないのに。
憧れのあのお姉さんとだって、エッチできるかもしれないのに。
……それでもいいの?」

お姉さんはまるでイジワルをするように、何度も何度も念押ししてくる。
そのあいだは腰の動きも止まってしまう。
あと、何回か擦ってもらえたら、それでもうイケそうなのに。

「いいのね? ホントにいいのね?
お隣のお姉さんとセックスしたり、美人のクラスメイトにしゃぶってもらったり、
そんな可能性を諦めるのね?
どうせ無理だものね?
……うん、そうね。あきらめていいのよ。
ここで私と、こうやってこすりっこして、それで射精するほうが、ずうっと気持ちいいものね。
これより気持ちいいことなんて、生き返っても味わえないものね。
気持ちいいなら、死んじゃっても、アナタはいいわよね」

はい、というかすれた声がボクの喉から漏れた。

お姉さんの身体がさらに密着してきて、そのすべすべとした感触が頬だけでなく、額を、喉を、肩を、あらゆるところに押しつけられる。
ボクも思わずお姉さんの全身にしがみつく。手の平のなかまで、やわらかくてとろとろの感触でいっぱいになる。

おちんちんがドレスと擦れる。ドレス越しにパンティと擦れる。
とってもキレイなお姉さんの穿いているパンティに、薄布一枚へだててこすりつけている。
お姉さんのアソコに、ペニスの先っぽがぎゅっと押しつけられる。

「さ、思いっきり射精して?
すべてを諦めてくれたお礼に、いくらでも射精させてあげる。
いくらでもいくらでも、気の済むまで射精させてあげるから、さあどうぞ」

ボクは射精していた。
おちんちんが震えて、気持ちよさの波が腰から先に向けてとめどなく溢れていく。
押しつぶされたペニスの先っぽで、精液がびゅるびゅると流れていく。
飛び散るというよりも、まるで沁みだすように、気の遠くなるくらいの時間をかけていつまでも射精が続く。

「はい、まず一回。気持ちよかった?」

ボクはうなずくこともできずに、お姉さんに身を預けていた。
両肩がそっと包まれる。
お姉さんが、しずかに言った。

「舟が来るのはね、一週間後なの」

おちんちんが、ぴくっと動く。
ボクが本当に死んでしまうまでは、とても長い時間がかかりそうだった。