電車の中で

列車に乗り込み、いつもの席に向かう。
車内の中央あたりまで歩き、二人がけの座席の窓際に座る。
しばらくしてドアの閉まる音がする。

車内はとても静かで、人の気配はない。
郊外から出る始発列車に乗っているのは、
たいていは僕ひとりだけ。
乗り換え駅につくまでは、一時間以上ある。
それまでは、いつもこの席で仮眠をとる。

数分もしないうちに眠気がやってくる。
窓から差す朝日が、ほんのりとあたたかい。
睡魔の足音が聞こえてくるような気さえする。
ひたり、ひたりと……妙にくっきりした足音が。

「先生、おはようございます」

そう言って、今村莉子(いまむら・りこ)が僕の隣に腰かけた。
短いスカートから伸びた白い足に見とれそうになり、
それから遅れて驚きと恐怖がやってくる。
この子が……どうしてここに?

「先生、返事してくれないんですか?
 冷たいんですね……こないだとは違って」

彼女の手が、僕の膝に伸びてくる。
黒いスーツのスラックスの上で、
白くて華奢な手がなめらかに動く。
薄い布越しに、柔らかさと体温が伝わってくる。

その感触だけで、数日前の記憶が鮮やかに蘇る。
この子を……莉子を犯してしまった記憶が。

誰もいなくなった教室に呼び出されて。
唐突な告白と一緒に、服をするすると脱がれて。
僕は断った。妻子がいる。教え子とはできない。だから、と。
だけど彼女は言った。「一度だけ」と。
そして……。

僕は慌てて思考を振り払い、莉子に問いかける。

「なんで……ここに?
 電車通学じゃないだろう?」

「ふふ、私のこと、よく知ってるんですね?
 ……でも、私も先生のことよく知ってますよ。
 こないだ新居を買ったばかりなんですよね。
 子供が生まれたばかりの奥さんのために、
 空気のきれいな郊外の土地をわざわざ選んであげた。
 自分が遠距離通勤になるのもかまわずに。
 家族思いのとっても優しい先生。
 だけど……教え子の身体に溺れちゃうんですよね」

「そういう言い方は……やめないか。
 あれは君が言い出したことだし、
 僕は……溺れてなんかいない」

僕らのほかには誰もいないはずだけど、
それでもつい声を低めてしまう。
一方、莉子は周囲のことなど気にしたふうもない。

「嘘はだめですよ、先生。
 あのときのあれが、溺れる以外のなんですか?
 はぁはぁと息を荒げて、みっともなくよだれをこぼして。
 必死に腰を打ちつけながら、
 それでいて快楽を少しでも長く味わおうともがいて。
 私の言葉にのせられて。
 私を慰める行為のふりをして、
 本当は頭の中では卑しい喜びに満ちていたんでしょう?
 教え子の身体に精液をぶちまけられることに、
 どうしようもなく興奮していたんですよね?」

「…………」

そんなことはない、と言えなかった。
莉子の言葉は真実だった。
僕は心の中でにやにやと笑いながら、彼女を抱いたのだ。

でも、僕はもうひとつのことも忘れてない。
あの日、家に帰ったときに感じたものを。
妻と幼い娘の顔を見たときに味わった気持ちを。
一生分の吐き気を凝縮したような気分の悪さ。
あんな思いは……二度としたくない。

「一度だけ、する……そういう約束だったろう。
 僕が卑しい人間なのは認めるよ。
 でも……もう終わったことだよ」

「はい、そういう約束でした。
 けど……ごめんなさい、気が変わったんです。
 私、思ったより先生が気に入ってしまったので」

「そんな……!」

思わず莉子を払いのけようとした。
だけどそれより早く、彼女の指が僕の股間に伸びる。
いつのまにか膨らんでいたそこを、
莉子の指がとんとんと優しく叩く。
それだけで身体の力が抜けていく。

「暴力はだめですよ、先生。
 それになにかされたら、痴漢されたって後で触れ回りますよ?
 言い訳なんてできませんよ。
 私はあの日汚された下着と制服だって持ってるんですから」

莉子の指がジッパーをゆっくり引きおろしていく。
車窓の外で、薄明るい朝の風景がどんどん流れていく。
ほっそりした指が下着の隙間に潜り込む。
まるで捕食された獲物のように、ペニスが露出させられる。

「ほら、こんなに大きくしてて……。
 期待していたんでしょう?
 あの日の快楽をもう一度味わえるかもしれないと、
 心の底ではそう期待しているんですよね?」

「……ちが……う……」

「また嘘をついて。
 もっと素直になっていいんですよ、先生?」

人差し指で、竿の裏側がゆっくりと上下になぞられる。
それだけでペニスがびくびくと震える。
尿道をなにかが通り抜けていく感触がする。
鈴口から透明な汁がぷっくりと湧き出す……。

「先生のここも、ちゃんと覚えてるみたいですね。
 私の身体の気持ちよさ……」

(……このまま…じゃ………まずい……)

背中に冷たい汗が噴き出す。
まとまらない思考が頭のなかで溢れかえる。

(…このままじゃ………このまま……してくれたら……)

莉子の身体の感触がまざまざと蘇る。
手のひらに吸いつくようなしっとりした肌。
いつまでも撫でていたくなる、すべすべの太もも。
小ぶりだけれど、柔らかさと弾力を兼ねそなえた乳房。
愛液でぐっしょりと濡れたあたたかい膣。

「ところで先生、そろそろ次の駅じゃないですか?」

心臓が大きく跳ねた。
心なしか列車のスピードが落ちていた。
窓の外の景色に民家の姿が増えてる。

「やめ…っ………」

その言葉が終わらないうちに、
外の風景が駅のホームに変わる。
そしてそのまま……駅を通り過ぎていく。

「くす……なに慌ててるんですか、先生。
 自分が乗っている電車がどこに停まるかも
 忘れちゃったんですか?」

そうだ。これは急行列車だ。
しばらくは他の駅には停まらない。
だけど……。

「だけど、誰かに見られたかもしれませんね?」

そんなことない。見られてないはずだ。
こんな早朝の田舎の駅に人はほとんどいない。
いたとしても……一瞬のことだ。
見てるはずが……ない………きっと……。

「見られたら先生の人生は終わりですね」

年齢からは想像もできない妖艶な笑みを莉子が浮かべる。
竿の裏側をゆっくりとなぞる動きはまだ続いてる。
見られる恐怖でかすかに萎えかけたペニスが、
指の腹のやわらかさを感じて再び膨らみだす。

カウパーが流れ落ち、莉子の指に絡まる。
指が汚れるのもかまわず、
莉子は一定のペースで性器を刺激しつづける。

「なにが……したいんだ?
 もう一度したいっていうなら……別の場所で…」

「別の場所で、人目に触れない場所でなら。
 気兼ねなく私の身体を犯しつくせるのに、
 そんなふうに思ってるんですか、先生?
 でも、だめですよ。そんな先生にばかり都合の良いことは。
 私がしたいのはね……先生のすべてをもらうことです」

「……すべ……て……?」

「そう。先生の人生のまるごとすべて。
 どうせ私に溺れるのなら、なにもかも溺れてほしいんです。
 奥さんも子供も、仕事も社会的地位もなにもかも捨てて
 私と交わることしか考えない、そうなってほしいんです」

「そんなこと……できるわけ……」

「……ほんとうに、できませんか?」

莉子が右脚を上げる。
僕の左脚に絡めるようにして、両膝のあいだに脚を差し込んでくる。
ほどよい肉づきの太ももが、僕の腿の上に乗せられる。
あぁ……なんてやらかいんだろう……。

「なにも大金を稼いで来い、なんて言ってるんじゃないんですよ?
 なにかを得るために努力なんてしなくていいんです。
 ただかわりに……手放すだけ。
 先生が積み上げてきた大切なものをかるく投げ捨てるだけ。
 とっても簡単なことなんですよ。
 それだけで……私の身体を自由にできるんですよ」

喋りながら、莉子がゆっくりと肩をすり寄せてくる。
薄赤い唇が綺麗な弧を描いている。
視線はそのまま彼女の胸元を見てしまう。
セーラー服の胸当ての隙間から見える空間が気になって仕方ない。

「私の胸、気になるんですか?
 いいですよ、先生になら見せてあげます……」

僕のものを右手でさすり続けながら、
莉子は左手を自分の胸元に持っていく。
ぱちん、ぱちん…と音を立てて、
着脱式の胸当てが外される……。
鎖骨のラインと、そこから続くゆるやかな膨らみが見える。
こまかなレースのあしらわれたピンクのブラをしていた。

「私と付き合ってくれたら、ここも自由にできますよ。
 乱暴に揉みしだいてもいいし、
 乳首をぺろぺろと犬みたいに舐めてもいいんです。
 ブラの内側に鼻をこすりつけて匂いを嗅いでも、
 そこにおちんちんを押しつけて射精しても。
 なにをしたっていいんですよ……」

莉子が胸元をわざとらしく開いてみせる。
彼女の口にした行為に耽っている自分の姿が、
すでにあったことのように、ありありと想像できてしまう。

ペニスがひときわ大きく震える。
指でさすられているだけなのに、もう達してしまいそうだった。
精液が陰嚢から漏れ出していくのが自分でわかる。

「ねえ、先生……私のこと、嫌いですか?」

「嫌いじゃ………ない」

「私の身体で射精したいと、思いません?」

思う、という一言が今にもこぼれ落ちそうだった。
射精したい。この子の肌から臭いがとれないくらいに、
身体の外側と内側を白いもので汚してしまいたい。
だけど。だけど……!

「僕は……もう家族を裏切りたくない……。
 分かってくれ……頼む…よ……」

皮膚が破けるんじゃないかと思うくらいに強く、
爪を手のひらの内側に食い込ませる。
指先が熱くなって、次第に感覚が麻痺してくる。
それでも力を込めつづけ、快感を打ち消そうとする。

「なんだ……そんなことですか。
 それはね、とても簡単な解決方法があります。
 私と先生で新しい家族になればいいんです。
 そうすれば、もう誰も裏切らずに済みますよ」

狂ってる……。
そんな理屈が通るわけ……。

「結婚したら、私たちは夫婦ですね。
 きっと毎晩のように愛し合うんでしょうね。
 あるいは毎朝? 食事のたびに?
 先生は私の身体を貪れるんですよ」

薄暗い部屋のなかで、
莉子が僕の上でいやらしく身体を揺らす。
午後のぬるい日差しのなかで、
莉子の身体にのしかって腰を振る。
そんな淫らなイメージが溢れてくる。

「それはそれは気持ちいいんですよ。
 せっかくだから……ほんの少しだけ
 味わってみましょうね、先生」

莉子が僕にしなだれかかってくる。
彼女の髪が僕のあごをくすぐる。
花の香りのような匂いが広がる。

「射精、してもいいですよ」

彼女の太ももが僕の足にこすれる。
スカートがめくれ上がる。
ブラと同じピンクのショーツが見える。
莉子の手がペニスの先端をきゅっ…と包む。

「……ぁ………あぁ………っ…!」

嗚咽のような声とともに、射精感が弾けた。

……びゅく…っ…! びゅぶるっ……じゅぶっ…びゅっ……!

精液が莉子の手に収まりきらなくて、
指の隙間から水鉄砲みたいに噴き出す。
快楽のあまりに腰がシートから浮いてしまう。
強張った奇妙な姿勢のまま、射精しつづける。

頭が快感でじん…と麻痺していた。
だけどそれでも、列車が駅を通過中なのは分かった。
見られるかもしれない、と理解していた。
でも止めようがなかった。やめたくなかった。

列車の走る音をどこか遠くに聞きながら、
僕は何度も何度も射精しつづけた……。
 
 
 
     * * *
 
  
 
長い射精が終わったあとで、
莉子が僕にすり寄ったまま囁いてくる。

「私の身体がどんなに気持ち良いか、
 少しは思い出してくれました?」

莉子の汚れていない左手が伸びてきて、
僕のネクタイをゆるめていく。
そうしながら一方で、精液まみれの右手を
僕に見せつけるようにかざしてみせる。

「本当にいっぱい出しましたね、先生。
 やっぱり家族を裏切れない、なんていうのは
 口先だけの嘘だったんですね」

「……ちがう………そうじゃない……。
 それは……しかたなく………」

「仕方ない?
 あんなにだらしなく頬をゆるめて、
 気持ち良さそうに射精しておいて、
 仕方なく出したなんて言うんですか?」

唇を噛む。たしかにそうだった。
射精を強制されたのは事実だけれど、
僕は心のどこかで……それを喜んでいた。
僕は……また愛する家族を裏切った。

「さあ、どうですか。先生。
 すべてを捨てて私と付き合う、その決心がつきました?」

微笑む莉子に向けて……僕は首を横に振った。

「……いいや。
 いいかい、君は思い違いをしてるよ。
 こんなことをされて好きになる?
 ……そんなわけないだろう。
 僕から見たら、君は僕の人生を壊す悪魔だよ。
 そんな奴、嫌いはしても好きにはなれない」

ゆっくりと、だが叩きつけるように言った。
けれど、莉子は少しも動じた様子を見せなかった。

「なるほど……どうやら、先生こそ勘違いをしてるみたいですね?
 私はなにも先生に振り向いてほしいわけでも、
 自分の魅力で虜にしたいわけでもないんです」

「ならどうして……!」

声を荒げた僕を無視して、
莉子がゆっくりと座席から立ち上がる。
彼女の右手に付着した精液がスカートにこすれる。
紺色のひだに白く濁った液体がこびりつく。

「おちんちん丸出しで、
 威勢の良いこと言うのは無様ですよ、先生。
 自分の立場、忘れてないですよね?
 私が一声上げるだけで、先生は性犯罪者ですよ。
 証拠もほら、こんなにたっぷり……」

莉子は僕の両膝をまたぐように立つと、
指の先を下に向ける。
どろりとした濃い精液がゆっくりと流れ落ちる。
スラックスの股間のあたりに汚い染みができていく。
精液独特の臭いがむわっと広がる。

「さっきも言ったじゃないですか。
 私は先生に、人生すべてを投げ捨ててほしいんです。
 でもね……先生にもチャンスをあげましょう。
 次の駅まで、まだ時間があります。
 それまで射精せずに耐えられたら、
 すべてをなかったことにしてあげます。
 先生はまっとうな一教師に戻り、家族と仲良く暮らす。
 そういう人生を許してあげます」

「もし……出してしまったら?」

「ふふ、いまから負けたときのことを考えて大丈夫ですか?
 まあ……出してしまったらどうなるかは、
 射精したその瞬間に分かりますよ、きっと。
 それじゃあ……すぐに始めましょう。
 どのみち先生には選択肢なんてないんですから」

莉子がスカートの裾を持ち上げて、
その紺色の布で僕のものをくるむ。
ざらついた布の感触に、
ペニスにまた血が流れ込みはじめる……。

「ん……すぐに大きくしてしまって。
 そんなことでちゃんと我慢できるんですか?
 駅まではまだ遠いですよ?」

一瞬外の風景に目をやるけれど、
そこがどの辺りなのかさえ分からなかった。
雑木林のような鬱蒼とした風景がつづいていて、
まるで見知らぬ土地にいるような気がする。

「まずはたっぷりと撫でてあげます。
 おちんちんの隅々に血が巡るように丹念に、
 ごしごし、ごしごし……って。
 先生、嬉しいでしょう?
 セーラー服のスカートでこすってもらえるなんて、
 夢みたいでしょう?」

スカートの布地が、大きくなったペニスに沿って変形する。
裏地が精液を吸って、表面にじんわりと黒い染みが広がる。

「いつも教室で眺めていたでしょう?
 ええ……もちろん気づいてましたよ。
 いつだって私たちの下半身に欲情していたでしょう。
 背後から抱きついて、汚い性器をスカート越しに
 お尻にこすりつける……そんな妄想ばかりしてたでしょう」

莉子の両手がスカート越しにペニスを包み込む。
精液とカウパーでどろどろになった性器に、
プリーツスカートがぴったりと張りついていく。

「スカートの感触、気持ちいいですか?
 椅子に座るたびに私のお尻に密着して、
 足を組むたびに太ももやあそこにくっついてる布ですよ。
 それにすっぽりおちんちんをくるまれて……
 教え子の下半身にこすりつけてるみたいで興奮しますか?」

その言葉で淫らな想像が強制的に引きずり出される。
教室の椅子に座った彼女に正面から抱きついて、
ペニスをあそこに押しつけている。
そんな空想がとめどもなく溢れてくる。

「ふふ……とろん、とした目。
 あのね……先生がいま想像してることは
 たんなる夢物語じゃないんですよ?
 本当のこと、現実のことになるんです。実現するんです。
 先生がすべてを諦めさえすれば、それだけで。
 ほら、もっと私にやらしいことをしたいと思いませんか?
 教室で、電車の中で、二人だけの部屋の中で。
 暗くしずかな映画館で、ピンク色の壁のホテルで、
 夜中のプールで、あたたかい温泉の中で。
 私を好き放題に犯してみたいと思いませんか?」

「……ぁ……それ……は…………」

この子を自分のものにしてしまいたい。
この子のものになってしまいたい。
精液と愛液の混ざったやらしい匂いのなかで
延々と腰を振っていたい……。

「私と一緒になってくれたら、なんでもしてあげます。
 そのために今しないといけないのは、
 とーっても簡単なことですよ。
 おちんちんの先から白いのをびゅー…って、
 呆けた顔しながら気持ちよく出すだけ。
 ね、すごくすごーく簡単でしょう?」

ペニスを包んでいたスカートが、ゆっくりと取り払われていく。
しわのついた布の下から、ひくひくと蠢く性器が見えてくる。

ペニスの表面に貼りついた布地が剥がれる感触だけで、
もう精液をこぼしてしまいそうだった。
このまま紺の布地の上に精液をぶちまけたいという欲求が、
どうしようもなく湧いてくる。

だけど、それでも僕は耐えていた。
腰の奥に力を入れて、目を見開いて、手のひらに爪を立てて。
どうして射精を我慢しているのかすら、よく分からなくなってくる。
でも出してはいけないのだと、ひたすら念じつづける。

「ただ素直になって、びゅーびゅー射精するだけ。
 そんな簡単なことを、どうして先生は難しくするんです?
 とっても簡単で気持ちのいいことなんですよ?」

笑いながら、莉子はスカートをめくり上げ、
ショーツの表面を鈴口あたりにこすりつけてくる。
スカートのざらついた感じとはまた違う、
すべすべの感触がペニスから全身に広がっていく。

こめかみで血管がどくどくと激しく脈打つ。
頭の芯がずっしりと重くて、視界が狭く暗くなってゆく。
それでも……必死にこらえつづける。

「ふふ、先生見てくださいよ、自分のおちんちんの先っぽ。
 透明なお汁ですらなくて、白いのがこぼれてますよ。
 もう射精してしまったみたいですよ?」

莉子のいうとおり、カウパーはすでに白く濁っていた。
ただ勢いよく噴出していないというだけで、
精液をこぼしているのに変わりはなかった。
それでも僕は首を振って射精を否定する。
出してない。まだ出してない。

「先生が出してないって言うなら、それでもいいですよ。
 だってそれは、『まだ』出してない、ってだけですもんね。
 もうすぐ思いっきりびゅーびゅーするまで待って、ということでしょう?」

くすくす笑いながら、莉子の腰が上下にゆったり動く。
ショーツの表面に、精液まみれのカウパーが幾筋も付着していく。
頭の中で血管がぶちぶちと切れるような感じがする。
もう限界だった。出してしまいたい。楽になってしまいたい。でも。

「…………ぁ…」

意識を逸らそうと目を向けた窓の外に、親子連れの姿が見えた。
左右の両親に手を引かれて、子供が笑顔で歩道を歩いている。
ほんの一瞬の光景だったけれど、鮮烈だった。

(……そうだよ………そうだ………)

自分がなんのために耐えていたのかを思い出す。
快楽に流される屑の僕がどうなろうと、そんなことはどうでもいい。
だけど、妻と娘だけは不幸にしちゃいけない。

「すごいですね、先生……まだ頑張れるんですか。
 よっぽどご家族が大切なんですね」

亀頭の表面を指の先でくるくるとこすりながら、
莉子が余裕たっぷりの顔で笑う。

「でも、そんなに大切なものを、
 もうすぐ私のために捨ててくれるんですね。
 取り返しのつかないことをしてしまうんですね……」

「君の思い通りには……ならない……」

窓の外の風景をもう一度確認する。
停車駅につくまでは、もうあと数分だった。
それさえ我慢すれば、僕は戻れる。
あの平穏で明るい世界に。

「凛々しい顔つきですね、先生。
 でも……これでもそんな顔をしていられます?」

莉子が腰を持ち上げる。
僕の両膝をまたぐように立って、
ショーツをぐいっと横にずらす……。

(…………まさか……)

莉子のしようとしていることに気づいてしまう。
あの日の記憶と感触が思い出される。
ペニスが跳ねて、喉がごくりとなってしまう……。

「ん……入れちゃいますよ……」

 腰が一気に落ちてくる。
 にゅるりゅっ…という感触とともにペニスが柔肉に包まれる。
 ついで、子宮に向けて搾り出すように膣が蠕動しはじめる…!

「………っ……や…め…っ……」

「やめて? やめてって言いたいんですか、先生?
 どうしてですか、こんなに素敵なことなのに……」

僕の両脚の上で、莉子が身体をくねらせる。
その動きにあわせて、膣壁がカリをぐりぐりとこする。
裏筋を肉ひだが這いずっていく。
強烈な刺激に、舌の根が震える。

「先生、一瞬前のかっこつけた顔はどこに行ったんですか?
 口をだらしなく開いて、みっともないお顔ですよ」

口のなかに、莉子の左の人指しを突っ込まれる。
反射的に舌が、それをしゃぶってしまう。
白くほっそりした指をちゅぱちゅぱと吸ってしまう……。

「あは、赤ちゃんみたいに指を吸って……。
 きっと寂しかったんですね?
 本性を隠して真人間を演じつづけるのが
 本当はずっと辛くて寂しかったんでしょう?」

違う。違う。僕はそんな人間じゃない。
平凡で……でもあたたかい家庭を愛して…それで……。

「でも、もう大丈夫。これからは私がいますよ。
 先生のどうしようもない本性を知っている私が、
 ずうっと先生を飼ってあげます……」

莉子が僕の上で身体を揺らす。
結合部から濁った液体が漏れて、ぐちゅぐちゅと音を立てる。
セーラー服のスカーフが揺れて、僕の顔をくすぐる。
……ぁ……あぁ……出し…たい……出したい……でも……。

いまにも飛びそうな意識のなかで、
それでも列車がスピードをゆるめていくのが分かった。
もう少しで駅につく。あとほんの少し。それで。

「停車駅のアナウンスが聞こえたら、終わってあげます。
 先生の身体からどいて、なにもなかったふりをしてあげます。
 そのかわり、もう私の身体で射精はできませんよ。
 この満たされない気持ちをこの先ずっと、
 死ぬまで何十年も抱いていくんですよ……。
 さあ、どうするんですか……先生?」

もうすぐ終わる。この時間が終わってしまう。
莉子の身体に二度と触れなくなる。
この気持ちのいい穴をぐちゅぐちゅとかき混ぜることも、
乳房に吸いつくことも、身体をかき抱くこともできなくなる。
だけど……だけど……!

もうなんのために耐えているのかも分からない。
いまや家族のためですらなかった。
ただ、莉子の思いどおりになるのが怖い、
そんな恐怖だけで射精をこらえつづけていた。

列車のスピードが急速に弱まっていく。
ブレーキ音が軋む。
停車する。
アナウンスが聞こえる。
 
 
――信号待ちのため、一時停車いたします。
 
 
「残念でした、先生……まだ駅じゃなかったですね」

莉子が腰を左右に捻る。
ぐちゅじゅっ…と結合が一際大きな水音を立てる。
莉子の中が震えて、ペニスにぬるぬるの肉が絡みつく。
張り詰めていた糸が…………それで切れた。

「……ぁ……あ……あ………で……る…っ……」

腰の奥から熱い液体が流れ出すのを感じた瞬間、
思わず莉子の腰をぎゅっと抱きしめた…!

……どぷっ……どぷびゅっ……ぶびゅっ……!

射精しながら、腰を持ち上げて莉子の腰に打ち付ける。
じゅぶびゅっ… じゅぶっ…と激しい水音を立てながら、
なにもかも忘れて思いきりペニスを突き入れる。

……どぷっ……どびゅるっ……じゅぶっ…!

頭の中がただただ気持ちよさで満たされる。
精液を吐き出すこと以外、なにも考えられなかった。

びゅぶっ……ずちゅっ…ちゅっ……!

何度も何度も腰を打ちつけて、射精した。
そのたびに莉子の中は僕のものにぴったり吸いついて
精液を搾り取るように締めつけた。
それから……ゆっくりと莉子が僕の腰から下りた。

「ね、先生……我慢できなかったらどうなるか、
 もう……分かりましたよね?」

「………………うん…」

頬がにやけるのを押さえられない。
もう分かってしまっていた。
僕はこの子なしではもう生きていけなくなった。
人生とか家庭とか倫理とかは、全部遠いところに行ってしまった。

「そう。先生はもうなにもかも捨てて私に従う。
 先生が私を嫌いになっても、私からはもう離れられない。
 だって、すべてを捨てて私を選んだんですから」

スカートの下とペニスのあいだに、
ほそく透明な糸が何本も伸びていた。
莉子はそれを指にくるくると巻きつけていく。

「誰かが誰かに惹かれて愛するようになるとか、
 そんな曖昧なもの……私はどうしても信じたくないんです。
 だけど、破滅と引き換えに得たものなら、もう捨てられないでしょう?
 永遠に持っておくしかないでしょう?
 だから先生は、これから永遠に私を愛するんです。
 ずっと、ずーっと、ずうっと……。
 だって、それ以外にはもう取り返しがつかないんですから……」

莉子の腕が僕の頭を優しく包み込む。
列車が軋んだ音を立てながら、ゆっくり動きはじめる……。

END