偏愛カッティング(前編)

「じゃあ切りますね、中島さん」

笑顔でそう言って、彩音(あやね)さんは僕の髪を切り始めた。
僕はいつもと同じように、身体を楽にして彼女のカットに身を任せる。
しばらくの間、シャキシャキと髪の毛が切られる音だけが室内に響く。

他には誰もお客さんはいないし、それにスタッフも彩音さん一人だけだ。
今日は月曜日だから、美容室も定休日だった。
それなのに僕がお店に来たのは、彼女のカットモデルになるためだった。

彩音さんはこの美容室のスタイリストで、
僕は大学に入って以来ずっと彼女に髪を切ってもらってる。
いつも思うことだけど、彩音さんはあまり美容師っぽくない人だった。

髪も染めてなくて黒髪ストレートだし、服装も派手さのない控えめなものばかりだ。
しかもどこかお嬢様っぽいというか、丁寧で柔らかい物腰をしている。
担当してもらうようになって二年以上になるけれど、
いまだに敬語以外で話しかけられた記憶がないぐらいだった。
最近になってやっと、軽い冗談が言い合えるようにはなったけれど。

「でもラッキーでしたよ、タダで切ってもらえるんだから」

僕の言葉に、彩音さんがいたずらっぽい顔になる。

「だけど、モデルさんはどんな髪型になっても文句言っちゃダメなんですよ?」

楽しそうに笑う彩音さんはとても可愛らしかった。
しかも控えめな性格とは裏腹に、胸が大きく、とても魅力的な身体つきをしている。
……正直に言えば、彼女のことを想像して自慰行為に走ったこともある。
もっとも、さすがに最近はそんなことはしてない。だって。

「今日はこのあと、どこかお出かけですか?」

まるで僕の思考を先読みしたみたいに、彩音さんが問いかけてくる。
その質問に、僕はちょっと照れながらも答える。

「……じつは彼女ができたんです。それで初デートなんですよ」

次の瞬間、耳の辺りに小さな痛みが走った。

「あ、ごめんなさい……!」

彩音さんがひどく動揺した声を漏らす。
どうやらハサミの先が、耳をかすめたらしい。
鏡で確認してみると、耳たぶにうっすらとした切り傷があった。

「本当にごめんなさい。痛かったですよね……?」
「平気ですよ。血も出てないみたいだし」

実際たいした傷でもなかったのだけれど、彩音さんはひどく恐縮していた。
そのせいもあってか、そのあとの彩音さんは寡黙だった。
もちろん僕が会話を振れば、それに応じていくらか話はしてくれる。
でもそれ以外はずっと真剣な顔で、黙々とハサミを動かしていた。
 
 
 
カットが一通り終わったところで、やっと彩音さんは晴れやかな表情を見せた。

「はい、これで出来上がりです。どうですか?」

毎度のことながら、髪型はよく似合っていた。
手鏡を手渡されて後ろ髪も確認する。言うまでもなく完璧だった。

「サービスで最後にシャンプーしますから」

彩音さんのあとについて、シャンプー台へと移動する。
シートに座ると、背もたれが後方へとクライニングして頭が洗面台に収まる。
それから彩音さんはシャワーで僕の髪を濡らすと、シャンプーの泡を立てはじめる。

「かゆいところ、ありませんか?」

目を閉じたままで、大丈夫ですよ、と答える。
そのあとでまた質問が飛んできた。

「それと、私と付き合う気、ありませんか?」

「え?」

聞き間違いでもしたかと思って、思わず目を開ける。
彩音さんは洗面台の横に立って、身体をかがめて僕の顔をのぞきこんでいた。

「私と付き合いませんか?」

「……あ、えと、言ってる意味が…………」

「私と恋人になりましょう、ってことですよ?」

物分かりの悪い子に教え諭すような、優しい口調だった。
僕が呆気にとられている間にも、彩音さんの指は動いている。
頭皮の汚れが、心地よくこそぎ落とされていく。

それから彩音さんは手についた泡をおしぼりで拭き取り、
さらに身体をかがめてきた。
いまや、ほとんど僕にのっかかるような格好になっていた。
彼女の大きな胸が、僕の肩や腕の上でやわらかく潰れる。
ペニスがあっという間に大きくなり、ジーンズの布地を押し上げる。

「私の胸、気持ちいいですか?
 私と付き合ったら、いつでも好きなだけ揉んでいいんですよ」

両胸を腕の上にのせたまま、彩音さんは少しずつ身体をずらす。
乳房の感触が、上腕から肘、前腕へとゆっくり移っていく。
ペニスはさらに固くなり、すでに痛いぐらいだった。
あの上品な彩音さんが、だらしなく僕に身体をもたせかけている。
たんなる快感以上に、その事実に異様な興奮を覚えてしまう。

「お客様、苦しいところはありませんか?
 ……なんて。ふふ、もちろんここが苦しいんですよね」

彩音さんはジーンズのジッパーに手をかけると、
僕のペニスを押さえつけながら、あっさりと引き下げてしまう。
トランクスのボタンまでもが、なんのためらいもなく外される。
ペニスが外気に触れて、ひんやりとした感触が広がる。

そこではじめて、僕は自分の状況の異常さに気がつく。
シャンプー台に寝かされて、性器を露出させられているなんて。

「いったいなにを……!」

慌てて起き上がろうとした。
けれど、その途端に彼女の腕が伸びてきて、頭を押さえつけられる。
女性の力とはいえ、頭を押さえられると、簡単には抗えなかった。

「暴れちゃだめですよ、中島さん。
 私はちょっとお願いをしているだけなんです。
 恋人になってくれませんかって」

「な、ならない……。
 ならないですよ……そんなの!
 さっきも言ったじゃないですか。彼女が出来たんです。
 だから、無理ですよ」

どうやらその言葉は一応は通じたらしい。
彩音さんはちょっと困り顔になる。

「あ、そうですよね。タイミング悪かったですよね。
 でも中島さんに彼女ができるなんて想像してなかったから、
 だからちょっと油断してたかもしれないです。
 ……うん、でもあれですね。
 じゃあ、その彼女さんと別れてください。そしたらオッケーです」

「そんなことできるわけ……!」

僕は腕を振り上げると、彼女の手を払いのけようとした。
でもそれよりも早く、目の前にハサミの先端が突きつけられた。

「だから暴力はだめですよ。
 だいいち、いまは中島さんのほうがよっぽど無防備なんですよ。
 わかってます?」

彩音さんはハサミを僕の顔から遠ざけた。
でもかわりにペニスに、冷たく金属質の感触があたる。
頭を押さえられているから、なにをされているのかは見えない。
でも、たぶん。

「そう。ご想像どおりですよ。
 いまね、あそこをハサミでそうっと挟んでるんです。
 私がちょっと力を入れたら、ちょきん、ってなっちゃうかもです。
 こうやって、いったん大きく開いて……」

じょきん、という音が響く。
痛みはなかった。出血した感触もない。
だけど、たしかにハサミが閉じる音だった。

「……大丈夫ですよ、大事なあそこは切ってませんから。
 陰毛が伸びてたから、ちょっとカットしただけです。
 ここもちゃんとお手入れしないと、いけませんから」

陰毛の切れ端をちらつかせてから、
彩音さんはそれを地面にぱらぱらと落とす。

「ふふ、大人しくなりましたね。
 ……ね、とっても無防備ですよね、この体勢。
 私いつも思ってたんですよ、シャンプーしてるときなら
 好きな人にどんなことでもできるなって」

彩音さんはハサミを脇に置くと、右手をそっと伸ばしてきた。
性的なことをされる、と反射的に思った。
だけど。

「……!」

ペニスの先端に、小さな痛みが走る。
どうやら彩音さんは、指先でペニスを弾いたみたいだった。

「あは。いい顔しますね、中島さん。
 気持ちいいことしてもらえるかもって期待しました?
 なにされるのか見えないと、ちょっとした刺激にも敏感になっちゃいますよね。
 目隠しプレイみたいで感じちゃいます?
 ……あ、心配しなくてもいいですよ。
 私はそういう性癖の人でも愛してあげますから」

彼女が言い終わるなり、またペニスに刺激が走る。
でも今度は痛みではなく、甘い快楽の刺激だった。

五本の指が、さするというよりは揉みこむようにペニスの上で動く。
先ほどの恐怖で半勃ちになっていた陰茎に、再び血が流れ込んでいく。
抵抗しようという意思を裏切って、どんどん固くなっていく。

「あらら、大きくなっちゃいましたね。
 恋人さんがいるのに他人の指でこんなになっちゃうなんて、いけないんですよ?
 ……それともあれですか?
 これって私と付き合ってくれるっていう告白だったりします?
 だったらとっても嬉しいです」

「違う……。だって、こんなことされたら、誰だって」

「誰だって、なんですか? 誰だって大きくしちゃう、ですか?
 ……んふふ、そうかもしれませんね。
 男の人って、えっちなこと考えるとすぐにこうなっちゃうそうですから。
 じゃあ、そうやって言い訳しててくださいね。
 このあと射精させられても、きっと中島さんは自分を正当化するんでしょうけど」

彩音さんの口から、射精という直接的な言葉が発せられている。
こんな状況だというのに、その奇妙なギャップに欲情してしまう。

「んん? いやらしい言葉聞いて反応しちゃいました?
 じゃあ、もっと言ってあげましょうか。
 いいんですよ、遠慮しなくて。私、もうすぐ恋人になるんですから。
 好きなだけ甘えてくださって」

愉悦に満ちた声で言いながら、彼女はペニスをしごき始める。
彩音さんのふにふにとした指の腹がこすれるたびに、脳の芯が痺れてしまう。
止めてくれと言いたいのに、口のなかがカラカラに乾いていて、それさえできない。

「どうですか、感じます?
 こういうの、シコシコするって表現するんですよね。
 中島さんもいつも、シコシコってオナニーしてるんですか?

 ……そういえば以前、私が薄着してたら食い入るように見てましたよね。
 ふふ、鏡越しだから気づかれてない、なんて思ってました?
 残念。丸分かりでしたよ。
 シャツからのぞくおっぱいを目に焼きつけようとしてる顔が可愛くて
 なんにも言いませんでしたけれど。
 あの日は私のこと想像して、ぴゅぴゅってしちゃったんですか?」

その日のことはよく覚えていた。
彩音さんがめずらしく胸元の開いたTシャツを着ていて、胸の谷間が見えていた。
それでブラとか、もしかしたら乳首とかも見えないかと思って凝視していた。

「答えてくれないんですか?
 じゃあ……いじめちゃいますよ」

途端、ペニスの先っぽに強烈な刺激が走った。
叩かれる痛みとはまた違う、ひりひりと焼けつくような熱い感覚。

「ひ、んっ…やめて、やめっ……!」

「やっぱり悶えてる声も素敵ですね。
 ね? ……なにされてるかわからないと、怖いですよね。
 教えてあげましょうか。
 これは、爪で尿道口のなかを引っ掻いてるんですよ?」

そう説明しながら、また彩音さんは尿道のなかをこする。
爪先でなぞられる程度なのに、それが気が狂いそうなほどの刺激になる。

「あ、手はよく洗ってますから、ばい菌が入ったりはしませんよ?
 もっとも、だからずうっとこうしてることもできるんですけど。
 ……さ、早く教えてください。
 私のこと想像してオナニーしたこと、ありますか?」

「…………あり…ます……」

喘ぎながらも必死に答える。
それでやっと、彩音さんの指がペニスから離れる。

「ふふ、ありがとうございます。私のことを想ってくれて。
 嬉しかったから、またサービスしちゃいますね」

彩音さんがポケットから、なにか小瓶のようなものを取り出すのがかすかに見えた。
と思ったら、ペニスに冷たくぬるぬるとした何かが降り注ぐ。

「……なんだと思います? ローションみたいな感触ですよね。
 これ、業務用のリンスなんです。
 粘度が高くて、乾燥しにくくて、それなりに高級品なんですから。
 普通のリンスだと、あとでペニスがひりひりしちゃうんですけど、
 これはいくら塗っても大丈夫なんですよ」

彩音さんはそのリンスを亀頭から肉棒まで入念に塗りつけてくる。
彼女の指が、ペニスをぬちゅぬちゅとくすぐる。
リンスがしだいに温かくなり、ぬるぬるとした淫靡な液体に変わっていく。

彩音さんはリンスを塗り終わると、亀頭を両の手で挟み込んだ。
そしてそのまま、片方の手の平でぐるぐると円を描く。
やわらかい手の平が、潤滑剤の力を借りて、
亀頭の表面をぬるぬると這い回りつづける。
しかももう片方の手でペニスが押さえられているから、
その快感から逃げようがない。

「ねちょぬちょ、ってやらしい音がしてますよ。
 亀さんをごしごしされるの、どうですか。
 切ない感じになっちゃいます?
 それとも刺激が足りないですか?」

「ひんっ……!」

小動物の鳴き声のような、なんとも情けない悲鳴が自分の口から漏れる。
だって彩音さんがときどき、爪でカリ首を引っ掻いてくるから。
我慢しようとする間もなく、何度も小さな喘ぎ声が漏れる。

「ん、ごめんなさい。強すぎました?
 じゃあ、このくらいかな?」

今度は指の腹で、カリの裏側をごしごしと擦られる。
さっきよりも優しく、溝が何度も撫で上げられる。
徐々にふわふわした陶酔感が頭のなかに満ちてくる。

「ぼうっとした顔になってますよ、中島さん。
 頭に血が上ってるから、なんて言い逃れはできませんよ?
 だって、おちんちんにこれだけ血が集まってるんですから」

くすくすと笑いながら、彩音さんはまた手の動きを変える。
ぎゅうっと握りこんできたかと思うと、ぱっ、とすべての指が離される。
しばらくすると、また五本の指が一斉に圧迫してくる。

ぎゅっ…ぱっ……ぎゅっ……ぱっ………。

「これ、もどかしいですよね?
 一言、私の恋人になるって言ってくださったら、
 何度でも気持ちよく射精させてあげますよ?」

僕は目を見開いて、必死に快楽に耐えていた。
白い天井のなかに、自分の初めての彼女をイメージする。
彼女の笑顔を想像し、裏切るまいと気持ちを強くする。
拳を握りこみ、身体中に力を、入れ…て………ああ。

いましがた入れたばかりの力が、とろとろと流れ出していく。
……無理もないじゃないか。
こんなことをされて、力が抜けずにいる男なんていない。

身体をさらにかがめた彩音さんは、ペニスに頬擦りしていたのだ。
彼女のぷにぷにとした心地よい肌が、
ペニスの表面をぬるぬると優しく撫でてくる。

「私のほっぺた、どんな感触ですか?
 店員さんのほっぺにおちんちんこすりつけるなんて、
 ほかでは絶対味わえないですよ?
 私もはじめてしたんですけど……すごいですね、これ。
 ほっぺって感度いいから、ペニスがぴくぴく震えてるのも
 とってもよくわかっちゃいます」

右頬、左頬、と交互に彼女の頬がこすりつけられる。
そのたびに肉棒の右側と左側が、リズミカルに愛撫される。

「…やめて……やめ…………あ…」

また握り拳を作って、快感に抗おうとした。
だけど、それさえできなくなっていた。
いつのまにか手のひらの上には、彩音さんの胸が乗っていた。
ペニスに頬がこすりつけられるたび、手のひらにも乳房が打ちつけられる。

「中島さんがいま考えてること、当ててあげましょうか?
 『触りたい、触りたい』って思ってるんですよね。
 それとも『おっぱい揉みたい、揉みたい』ですか?
 『むにむにしたい、ぎゅうぎゅうしたい』とかかもしれないですね?」

その全部だった。
指にちょっと力を入れるだけで、あの彩音さんのおっぱいを好きなだけ揉みしだける。
その欲求に耐えるのは、もはや拷問に近かった。

「シャツ越しでも、すべすべで柔らかいのが分かりますよね。
 あ、でも固いのがあるのもばれちゃいますか?」

そう言われてはじめて、僕の手のひらに小さく固い突起が触れていることに気づく。
これが彩音さんの乳首だってことと、それから彼女がノーブラだってことにも。

「……あはっ。とうとうガマン、できなくなっちゃいました?」

無意識のうちに、僕は彩音さんの乳を揉んでいた。
さっき自分がされたみたいに、ぎゅうっと握っては力を緩めて、また思いっきり揉む。
手のひらに余すところなく乳房の感触をこすりつけようと、
指を激しく動かしながら、彼女の胸を触りつづける。
気持ちいい…おっぱい気持ちいい……!

「ねえ……そろそろ出したくなってきちゃいました?
 じゃあ、言ってください。『彩音さん、付き合ってください』って。
 そしたら……思いっきりぴゅーってさせてあげます」

とろけきった頭の中に、囁きがあまく響く。
なんて優しい人なんだろうか。
ただ一言言うだけで、それでとっても気持ちよくしてくれるなんて。

「彩音さん……」
「はい、なんですか?」

嬉しそうな彼女の声。僕はそれに応えようとする。
口を開き、付き合って、と言おうとして、そこでメールの着信音が響いた。
その着信音は、僕が自分の彼女専用に設定したものだった。

「……だめだ。やっぱりだめですよ、こんなの」

気がつけば、僕は拒絶の言葉を述べていた。
……僕はどうかしてた。
すこし気持ちよくされたぐらいで、あんなこと言いそうになるなんて。

「…………ふぅん、そんなこと言うんですね」

暗く冷たい声だった。
だけど続く言葉には、なぜか愉悦が含まれていた。
冷え切ったブラックコーヒーに無理やり砂糖を流し込んだような、
澱んだ愉悦だった。

「いいですよ、それならそれで。
 ようするに、まだ中島さんは自分のことを分かってないんですよね。
 快楽があればなんでもいい人間だって、わかってないんです。
 愛情とか倫理観とか、そういうものを守れる人間だって、まだ思ってるんですね。

 ……だったら、こうしましょう。
 いったん中島さんの気持ちを尊重してあげます。
 その建て前を守らせたままで、だらしなく射精させてあげます。
 私って、本当に優しいですよね」

言い終わった途端、彩音さんは素早く動いた。
身体を起こすと、再び僕の頭を洗面台に押さえつけた。
さらに、先ほど彩音さんが手を拭くのに使ったおしぼりが顔の上にかぶせられる。
視界が白く覆われてなにも見えなくなる。

「……な、に……を…」

喋ろうとするのだけれど、おしぼりが邪魔で上手く声が発せない。

「あれ、思ったよりも空気が通るみたいですね。
 もうちょっと濡らした方がいいですね」

言うなり、顔に冷たいシャワーが降り注いだ。
おしぼりはあっという間にずぶ濡れになり、僕の顔にと張りつく。
鼻や唇までがぴったりと覆われて、しかもその状態の口元を、
彩音さんの手がさらに塞いだ。息ができない。

「苦しいですか?
 そうですよね、呼吸ができないんですから。
 このままだと死んじゃいますよ?
 ……でも射精したら、このおしぼりを取ってあげます」

彩音さんの右手が、ペニスの上をぬるぬると滑りはじめる。
今度は先ほどまでのような、焦らすような動きはまったくなかった。
竿を根元からしごき上げたかと思うと、
カリ首の辺りだけを重点的に、小さく何十回も往復する。

「……ふぶぁっ……やっぶっ……」

喘いだ声さえ、布と手に押さえつけられているせいでくぐもっていた。
そして喘ぐたびに、貴重な酸素が身体から失われていく。
急激に酸欠が進み、息苦しさが高まっていく。

「早くしないと呼吸困難で死んじゃいますよ?
 さ、早く射精しちゃいましょう。
 大丈夫。彼女さんを裏切ったことにはならないですよ。
 だって中島さんは脅迫されてるんですから。
 精液をみっともなくどぴゅどぴゅ吐き出しても、
 命を守るためだから仕方なかった……そうですよね?」

射精感と息苦しさが、どちらもどうしようもなく高まる。
我慢なんてしようがなかったし、我慢したら死んでしまう。

……死ぬのなんてやだ。
だから、思いっきり気持ちよくなろう。

……そうだ、それでいいじゃないか。
気持ちよく射精して、それで悪いことなんてなにもない。

「中島さん、身体が動いてますよ?
 ……ふふ、射精したいんですね?」

横たわったままで、それでもさらに快感を求めようとして、
彼女の手のひらにより強くペニスをこすりつけようとしていた。
もちろん、彩音さんの胸も必死に揉んでいた。
指のあいだで乳肉がむにゅむにゅと変形していく。

酸欠のせいなのか意識が遠くなり、
かわりに以前の記憶がフラッシュバックする。

そのプロポーションの良い身体を見たときの興奮が蘇る。
あるいは彼女のことを想像しながらオナニーしていたときの、
彼女の身体で無茶苦茶に気持ちよくなりたい、という興奮も思い出す。
その夢が全部、いま実現していた。

「そう、なんにも我慢せずに気持ちよくなってください。
 私はあなたを愛しているんですから。
 ほら、私の愛情を受けるのって、いい気持ちですよね?」

彩音さんの二本の指が、Vの字を形作ってペニスを下から挟み込む。
左右から肉棒を締めつけながら、指の股でカリの裏側をしごき上げてくる。
リンスと、そしてきっとペニスから溢れ出したカウパーのせいで、
指はぬるぬると休むことなく上下に動く。

「……そろそろですか?
 さあ、それじゃ射精しちゃいましょう。
 綺麗にお掃除された美容室のなかで、可愛いスタイリストさんにしごかれて
 それで汚い精液吐き出しちゃってください」

指の動きが速くなり、それとともにペニスが僕のお腹に押しつけられていく。
ほとんどお腹にくっついたペニスの上で、指が素早く往復し、
それから不意に、ぬるっとペニスから指が滑り落ちた。
その滑り落ちる間際の、ひときわ強い裏筋への刺激が、射精の引き金になった。

ずぱっ……! びゅっ…どぱっ……! びゅ…ずびゅっ……!

反動で勢いよくペニスが天を突き、いっしょに精液が迸る。
びくびくと跳ね回るペニスとともに、白い精液が辺りかまわずぶちまけられる。

「……んんぅっ…………ぶはぁっ…!」

射精と同時に、口元を押さえていた手と布が取り払われる。
空気が身体に流れ込み、その快感で全身が震えて、また精が漏れる。
そのまましばらく、僕は身体をびくつかせながら、何度も精液をこぼしつづけた。

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