魔法のオナホール

痴漢を捕まえたら、お礼にオナホールをもらった。

なにを言っているのかよくわからないと思うけれど、
ありのままに起こったことを説明してるのだ。ホントに。

登校途中に、痴漢されて困っている女性がいたので助けた。
そしたらお礼に魔法のオナホールをもらったのだ。

なにが魔法かというと、このオナホは、女性の髪の毛を埋め込むことで、
その女性の膣を再現できる、というのだ。

バカバカしいと思った。

かといって、捨てるのはもったいなかった。
アダルトグッズなんて買ったことはなかったし、
魔法だなんだは抜きにしても純粋に使ってみたかった。

そんなわけで、学校の鞄の奥深くにしまい込み、
そのまま僕は登校した。

     * * *

窓の外では夕日の輝きもほとんど消え、すでに薄闇が広がりつつある。

僕は最後の一冊を本棚にしまいこみ、ふぅ、とため息をついた。
これで返却された図書の整理はすべて終わりだ。

図書委員てのも意外と楽じゃないよな、と思いながら
僕は受付カウンターに戻る。

受付では図書委員長の浅井さんが気持ち良さそうに眠っていた。
これも毎度のことだ。
図書室の眠り姫なんてあだ名までつけられており、
いまや生徒は自分たちで貸し出しカードの記入からなにからするようになってしまった。

「先輩、帰りますよ」

声をかけてみるが、まったく反応がない。
仕方なく肩をゆさぶってみるが、それでも彼女は起きなかった。

肩をゆすった拍子に、浅井さんの髪が僕の手に触れる。
そのとき朝のことを思い出した。
髪の毛を入れれば――という話。

先輩、ともう一度声をかけ、それでも起きないのを確かめると
僕は受付のペン立てからハサミを取り出し、髪の毛を一本だけ切り取った。

髪の毛をどこにしまおうかと思案したが、良い場所が思いつかなかった。
ならもういっそオナホにでもしまうかと思って、
受付の下に置いてあったバッグを取り出した。

片手で器用にバッグを開けるあいだも、先輩はまるで起きる気配がない。
バッグの底に、一応のカバーとしてコンビニのビニール袋をかけただけのオナホがある。
そのオナホ穴に髪の毛を入れようとしたとき、
まるで生き物みたいに髪の毛がうねって、そのまま穴に吸い込まれていった。

と同時に、オナホからほんのりとした温かさを感じるようになった。
触ってみると、外側のゴムの感触そのものには大きな変化はない。
でもオナホール全体が、生温かいとしか表現しようのないぬくもりを持っていた。

「まさか、ね」

呟いて、穴のなかにそっと人さし指を入れてみる。
途端、ぬちゃぬちゃと指に絡みつくような肉の感触がある。
びくっと震えて、思わず指を引き抜いてしまう。
人さし指は、さすがに濡れたりはしていなかったけれど、でも確かにあたたかかった。

もう一度、ゆっくりと指で触れてみる。
その感触は、絶対にゴムではなかった。
オナホはもちろん女性のアソコを再現しているのだろうが、それだけでは説明できないリアルな肉感があった。

思い切って、指を第二関節ぐらいまで突っ込んでみる。
まるで指を食べてしまおうとするかのように、周りの肉がぎゅっと押し寄せてくる。
その感じがたまらなくて、何度も指を出し入れしてしまう。

「んっ……」

先輩が背後で声を上げた。
僕は慌てて指を引き抜くと、鞄を身体で隠しながら振り向いた。

でも、声はただの寝言だった。
相変わらず、先輩はすやすやと眠っていた。

蛍光灯の白い光の下で、でも先輩の頬だけは少し赤みがかっているように見えた。
自分が少しだけ彼女を興奮させた、そんな気がしてしまう。

先輩を犯してしまいたい。無茶苦茶にしてしまいたい。
そんな欲望が不意に湧き上がる。

だけど、そんなことはできなかった。
欲望が生まれたのと同時に、自分にはそんな勇気はない、とわかってしまった。

その自分がみじめで悔しかった。
その悔しさをぶつけるように、僕は再びオナホに手を伸ばした。

今度は思い切り、指二本まとめて突っ込んでみる。

「んんっ…」

また先輩が喘いだ。
僕は調子づいて、さらに勢いよく、膣壁をこするように指を動かす。
先輩の呼吸はどんどん荒くなっていく。

もしかして。もしかすると。
そんな気持ちがだんだんと自分のなかで大きくなってくる。
これは本当に魔法のオナホールなのかもしれない、と。

僕は鞄を両手で抱えると、図書室の隅まで走った。
ここからなら、受付の先輩が目を覚ましたらすぐにわかる。
でも逆に先輩からは僕がなにをしているのかはわからない。

鞄からオナホールを取り出してみる。
ピンク色したゴムの表面が、さらにうっすらと赤らんでいるように思えた。
穴に指を差し入れると、ぬめっとしたなにかに触れた。
指を引き抜くと、光を受けて透明な液体がきらめく。

先輩の愛液。

その単語が頭に浮かんで消えなくなった。

ひょっとすると違うのかもしれない。
使っているとローションが染み出てくる仕組みの新しいオナホなのかもしれない。

でも、いまの僕にはそれは先輩の愛液であり、
先輩のアソコ以外の何物でもなくなっていた。
魔法にかけられたように、性欲が身体を駆け巡っていた。

ジッパーを下ろし、ペニスを取り出す。
すでにペニスの先からは先走りがかすかに漏れている。

オナホールの穴を、ゆっくりと亀頭に近づける。
僕は先輩の方をちらりと見る。
彼女が起きるのを心配してというよりも、むしろ彼女の様子を観察したくて。

遠目でも、先輩が気持ち良さそうに眠っているのがわかる。
その安らかな寝顔を見ながら、僕はペニスの先っぽを穴に押し込んだ。

先輩の身体がかすかに震えた。

そしてその震えに合わせるように、オナホールの中がうごめく。
蠕動運動とともに、ペニスが穴の奥へと吸い込まれていく。
先端だけでなく、カリ首を、竿を、すっぽりと包み込んでゆく。

肉棒にあたたかくぬめった液体が触れ、潤滑液となってペニスを根元で飲み込む。
穴の中は柔らかな肉で満ちている。
とろとろで、ねちゃねちゃとした肉のひだに僕はペニスをこすりつける。

二、三度ホールを動かしただけで、あっという間に射精感が湧き上がってくる。
今まで体験したことのないような、不思議な快楽だった。
突き上げるような、欲望を勢いよく発射したいという気持ちとはまるで違っていた。

自分から性を吐き出すのではなく、吸い取られるような恍惚感。
強制的に、自分のなかの快楽が溢れて出てしまうような気持ちよさ。

水でいっぱいになったコップに、さらにどぼどぼと水を注がれるみたいに
腰の辺りに心地良さが満ちてくる。耐えられなくなる。

僕は思わずオナホールを手放した。
その快感をもっと長時間味わっていたかったからだろうか。
それとも、これ以上の快楽に耐えられそうになかったからか。

でも、どちらにせよオナホは僕を絶頂に導くのを止めようとはしなかった。
手を放しているのに、ホールは僕のペニスに吸いついているかのように密着していた。
先輩のアソコがひくつき、無理やりに射精を促してくる。

腰が砕けて、立っていられなくなる。
僕は膝から崩れ落ち、四つんばいになって手をついた。

ペニスとオナホは真下を向いて、それでもしっかりくっついていた。

「……んっ」

先輩の、ひときわ強い喘ぎ声が聞こえて、それと一緒に穴が素早く何度も収縮した。
コップから水がこぼれるように、僕はだらしなく射精した。

とろとろと、閉め損ねた蛇口から漏れ出るように精液が溢れていく。
ペニスはほとんど律動さえしない。
なのに、たまらなく気持ちいい。
このままペニスが溶けてもいい、とさえ思える。

射精は長く続いた。
ちょろちょろと、ストローでゆっくり吸われるように少しずつ精液が身体から抜けていく。
その間も、ずっと快楽は続いている。
精液が尽きるより先に呼吸が苦しくなって、息を吸っていないことに気づく。
それでも息を吸う力が身体に入らない。ひどい息苦しさのなかで、快楽だけが続く。

そして本当に呼吸困難に陥りそうになった頃、やっと射精は終わった。
僕はもう四つんばいですらなくなり、床に横向けに寝ていた。

いま先輩が起きたら、あるいは誰かが部屋に入ってきたら、なにもかも終わりだと思う。
頭ではわかっているのに、動けなかった。全身が虚脱してないもできなかった。

五分ほどして、やっと身体を起こす。
幸い、先輩は相変わらず眠ったままだった。誰かがやってくる気配もない。

自分のペニスから、オナホールをそっと取り出す。
すでにホールは不思議なあたたかみを失い、ただのぬるいゴムの塊と化していた。

僕はのろのろとした動作ですべてを片付けると、最後に先輩の肩に手をかける。

その顔が、ほんの少しだけ熱を帯びていたように見えたけれど、本当のことはわからない。
本当に魔法だったのか、あるいは全部思い込みなのか、わからない。

わからない。だから、これから確かめていかないといけない。
何度でも。何日でも。確かめていこう。

にやついた笑みを消すのに苦労しながら、僕は先輩をゆり起こした。

END