ふらんごっこ

映画がエンドロールに入る。
暗い部屋のなかで、クレジットの白い文字ばかりが光る。

僕に背中を預けている彼女が、すこし身体をもぞもぞさせる。
かすかに甘いミルクのような匂いがする。

ほのかが、僕に振り向いて微笑む。

「ね……こわかったね」

僕はあいまいにうなずく。
怖かったのかどうか、いまはもうよくわからない。
うなずいた拍子に、鼻先がほのかの頬にこすれる。
甘い匂いがつよくなる。

ホラーとかスプラッタとか、そういう映画が苦手だった。
とくにゾンビ映画が嫌いだった……昔の僕は。

「ほんとにこわかったなぁ……ふふ…」

ほのかは、そういう映画が大好きだった。
付き合いはじめて、彼女の部屋で一緒に映画を観るようになって、
それではじめて知ったことだった。

「いつもの……していい?」

それからもう一つ知ったこと。
そういう映画を観たあとで、いつもほのかは僕と遊びたがる。

遊びの名前は、ふらんごっこ。
腐乱ごっこ。ゾンビごっこ。
とてもやらしい……身体をくっつけあう遊び。

「じゃあ……しちゃうね」

彼女の指が、僕のTシャツの襟にかかる。
だらしなく伸びきったシャツの縁が、ほそい指に引きずりおろされる。
露出した胸板に、ほのかが頬ずりしてくる。

すべすべの肌がこすれる感触に、
背筋がぞくぞくと震える。
ついで、あたたかく濡れた感覚が広がっていく。
ほのかが僕の胸を舐めていた。

「たべちゃう……ぞぉ…♪」

心底楽しそうに笑いながら、僕の身体を舐めまわしていく。
舌をすぼめて、ほそく線を引くようになぞったかと思うと、
今度はべろりと広範囲を舐め上げてくる。

「ほらぁ……にげなくていいの…?
 ふふ……あなたもゾンビになっちゃうよぉ……」

唾液をしたたらせながら、ほのかの口元が上がってくる。
僕の肩によだれがだらだらとこぼれていく。
ぬるんだ液体が、肩から二の腕、肘へと垂れていく。

首筋に噛みつかれる。
首の肉にやわからく歯が食い込むのを感じる。
もちろん食い破られたりなんてしないけれど、
それでも本能的な恐怖を覚えてしまう。

「とく…とく……ってなってるの、わかるよ……」

薄皮一枚へだてて、血管に歯を立てられてる。
今にも皮膚を食い破られて、血がどぱぁと流れ出し、
あたり一面が真っ赤に染まって、死んでしまう。
そんなイメージが溢れてしまう。

「ね……なかまになってよ………」

後ろ髪がかき混ぜられる。
耳の後ろをれろりと舐められる。

「あは……ここ…ざらざらする………」

髪の生え際を、舌が何度も往復する。
濡れたそばから彼女の吐息がかかる。
生ぬるいあたたかさと、ひんやりとした感じが交互にやってくる。

ほのかの胸が、僕の身体に押しつけられる。
ふわふわしたぬくもりが、心臓の辺りにあたる。
心臓が鼓動を打つたびに、やわらかさを感じる。
ぞくぞくした感じが背筋を駆け上る。
脳が痺れるような、ゆるい陶酔感が広がる。

「くっつきっこ……きもちいいでしょ……。
 かくしたってダメだよ……こんなにくっついてるんだから…。
 あなたのこころも、からだのなかも、なんでもわかっちゃうの。
 とくとくってながれてるのが、どこにたまってるのかも……ね」

ズボンの隙間から、指が入ってくる。
下着も上手に押しのけながら進んでくる。
でも触れてしまう直前で……止まる。
焦らすように、ちぢれ毛を指にくるくると巻きつける。

「……さわってほしい?」

耳たぶを優しく噛みながら、ほのかが囁く。
うん……とかろうじて答える。

「ん……おりこうさん…」

ほのかが呟くのと同時に、指が絡みついてくる。
植物の蔓みたいに、根元からまとわりつきながら
這い上ってくる……。

「やっぱり…おおきくなってるね……。
 それに……ふふ…びしょびしょだよ……?」

先っぽから溢れだしていたぬるぬるを、
ほのかの指がくちゅくちゅと弄ぶ。
ズボンの外まで、いやらしい音が聞こえる。

「なんだか……おもらししちゃったみたいだね…。
 せっかくだから……もっとぬらしてあげる……」

ちゅぷっ…という音とともに、
ほのかの唇から唾液がこぼれる。
僕の鎖骨に落ちて、一瞬とどまって……流れ落ちる。
胸板…お腹……それから下腹部へと垂れていく。
何度も何度も、あたたかい唾液がすべり落ちていく。

「わたしのぬるぬると…あなたのぬるぬる…いっしょになったよ…。
 ぐちゅぐちゅって……えっちだね……」

下腹部で混ざり合った粘液をこすりつけるようにして、
ほのかの手が僕のをこね回す。
自分の意思とは無関係に、腰全体がひくひくと蠢いてしまう。

「あは……もうでちゃいそう?
 でもいいのかなぁ…。
 びゅーびゅーしちゃうと……ゾンビになっちゃうんだよ…?
 かんせん、しちゃうんだよ……」

出してしまったら、ウイルスに感染してゾンビの仲間入り。
その日いちにちは、僕をゾンビにした彼女の言いなり。
そういうルール。そういう遊び。

「なのに……もうがまんできないだ…?
 いっぱいだしたくて、たまらないんだ……」

ほのかの身体がさらにこすりつけられる。
Tシャツの布地がこすれて、かすかにざらつく。
そんな感触すら、たまらなく心地いい。

「いいよ……じゃあ…うつしてあげる。
 からだをぜんぶ……わたしでおかしてあげる。
 だから……だしちゃおうね…」

彼女の指が輪っかを作り、先っぽをきゅうっと締めつける。
余った左手がズボンから引き抜かれて、
粘液にまみれた指で首筋を撫でられる。

ぬるぬると、くすぐったさが一緒になる。
全身がぞくぞくした感覚に震える。
腰の奥からあたたかいものが流れて……溢れだす。

どぱぁ…どぱぁ…と何度もひくつく。
放つというよりも、こぼれるようにして溢れていく。
下着の中にあたたかく粘ついた感触が広がっていく。

「でちゃったね……。
 ふふ……うつっちゃったよ…わたしのウイルス。
 さいぼうのひとつひとつまで、
 ぜんぶぜんぶ…わたしとくっついちゃうんだよ…」

ほのかが右手を引き抜く。
手の甲も、指の股も、爪の間も、なにからなにまで、
白くどろどろしたもので汚れていた。

「……あったかいなぁ……」

幸せそうに呟きながら、
ほのかは汚れた手を自分のお腹にくっつける。
薄いTシャツの生地に染みが広がっていく。

僕の股間をまさぐっては、新しい粘液をすくい取り、
自分の身体にこすりつけていく。
お腹だけじゃなくて、胸元や、下腹部にも……。

「きもちいいなぁ……これ」

ほのかが、今度は自分の下腹部をまさぐる。
スカートがめくれて、レース地の下着が見えるけれど、
まるで気にしてもいない。
彼女の下半身からも、卑猥な水音が響いてる……。

「ね…こっちのぬるぬるとも、くっついちゃった……。
 ほら……あなたにもしてあげる……」

二人の体液にまみれた手を、
ほのかは僕の胸板にぺたぺたとこすりつける。
手のひらが離れるたびに、何本もの透明な糸が引く。

Tシャツの裾からも手が入ってくる。
にゅるにゅるとした感触が、じかに肌に触れる。

「もっと…もっと……くっつこうね」

耐えきれなくなったように、ほのかが抱きついてくる。
ほのかのシャツは、もうどこもかしこも粘液に濡れていた。
胸の先端までが透けて見える。

ぬめった身体をくっつけ合いながらも、
彼女は僕のをズボンからたくみに取り出す。

「またおっきくなってるね……。
 また…だしたいんだ……?
 ……いいよ……いくらでもしてあげる。
 だから……ずっとふたりでいようね……。
 もし……ほんとうにゾンビになっても…
 おしゃべりさえもできなくなって
 わらうことも…なくこともできなくなっても。
 くっつきあって……きもちよくなろうね………」

映画のエンドロールはまだ続いてる。
レクイエムのようなしずかなピアノ演奏がつづく。
テレビモニタのかすかな明りが、
窓際のピンクのカーテンを照らしてる。

僕の鼻の頭を舐めながら、ほのかが微笑む。

「ね……そっちからもさわって。
 いまはもう……あなたもゾンビなんだから。
 わたしにだきついたり…なめたり…かみついたり。
 なにしてもいいんだよ……」

促されるように、彼女の首筋にそっと歯を立てる。
さらさらの髪が顔にかかって、少しくすぐったい。
シャンプーのかすかな香りがする。

「わたしのからだ……おいしい?
 かみついてるから、こたえられない?
 でもきっと……よろこんでくれてるんだよね。
 ここ……こんなにびくびくしてるから」

お腹の下で膨れあがったそれを、
ほのかの手がいたわるように撫で回す。
それだけで……もう達しそうになる。

「がまんしなくていいんだよ……。
 わたしね……くっつきっこするの、だいすきだから。
 じゅぽじゅぽなんて……しなくてもいいぐらい。
 ふたりでくっついてるだけで……しあわせになれるの…。
 あなたも……それでいい?」

鼻をこすりつるようにして、うん…うん…と何度もうなずく。
難しいことはもう考えられない。
このまま…ずっとこのまま……こうしていたかった。

「じゃあ……そうしようね。
 これがきょうの……わたしからのめいれい。
 ふたりでこのまま……しあわせになろうね」

ほのかは自分の下着をわずかにずらす。
そうして……隙間に僕のを差し込む。
彼女の下腹部と下着のあいだに……挟みこまれる。

「……おなかのところ……あったかい。
 でもおっきくなってるから……さきっぽがとびだしちゃったね。
 ふふ……まるで…わたしにも、はえちゃったみたい……」

下着から顔を出した先端を、ほのかがつつくように触る。
んっ…という声が漏れてしまう。

「あは……かわいいこえ……。
 わたしには……おとこのこのがついて。
 あなたは……おんなのこみたいで。
 ね……すてきだね。
 これでほんとに……ふたりでひとつになったよ……。
 いつまでも…いつまでもいっしょなの……」

ほのかの腕が僕の背中に回される。
僕も彼女の身体をかき抱く。

下着のレースがこすれるざらざらした感触。
ほのかのお腹のぬくもり。
やらしい匂いと、薄桃色の光と。
ピアノのしずかな旋律。
そんなものが、なにもかもいっしょくたになって。

とくん…とくん…と液体が流れ出す。
細胞がぜんぶ溶けだしてるみたい。
本当にほのかとひとつに溶けあったような、
そんな心地がする。
 
 
幸せの余韻とともに、ピアノのメロディーが消えていく。
最後の制作会社のクレジットが消える頃、
抱き合ったままでほのかが囁いた。

「あのね……えいが、もうひとつ…かりてるの……。
 それみながら……もっとしよう…ね……。
 ふたりでいっしょに……だらしなぁい…こいびとになるの…。
 あまいにおいのする……ただれたふたりに……。
 ね……?」

END