壇上で話す僕の声だけが、辺りに響く。
「――あらためてもう一度、考えてみてください。
欲望に囚われ、溺れることの醜さを」
集会場の皆に語りかけながら、
自分がしでかしてきたことを一つずつ思い出す。
菜々美との性的な関係に陥り、
それを絶ったところで、今度は姉さんの裸で自慰に耽った。
「自分の心を律することを忘れ、
ただ目の前の快楽に流されるだけの愚かな人間。
そんな人に……幸福になる資格はありません」
偽らざる、僕の本心。
形だけの空虚なものではない、心からの言葉。
そうだ。
僕に、幸福になる資格なんてない。
……ただ、それでも。
「けれど……もしそんな欲望に負けそうになったら。
そのときは、思い出してください。
自分にとって一番大切なものは、なんなのか。
譲れないものを守るために、どうすればいいか。
その答えは、皆さんの中にあります」
集会場は、しん、と静まり返っていた。
僕の雰囲気がなんだか違うと、伝わったのかもしれない。
けど、皆の反応に大した興味はなかった。
「…………」
いつもなら菜々美がいるはずの席を一瞥する。
彼女の姿はない。
当然だった。
だって菜々美は……僕の部屋にいるはずだから。
「教祖様、お疲れ様でした…♪」
自室に入ると同時に、菜々美に声をかけられる。
カーテン越しの光だけの薄暗い部屋で、
いつものセーラー服を着てた。
後ろ手にドアを閉め、鍵をかけ、
それから……椅子に座る彼女の前にひざまずく。
「菜々美、お願い……」
おぼつかない手つきでベルトを外し、ジッパーを下ろす。
取り出したペニスは、すでにガチガチに勃起してる……。
「くす……♡
がっつきすぎですよ、教祖様?
『もうやめよう』だとかおっしゃってたのは、
どこへ行ったんでしょうか」
「……ぅ……それは……ごめん……」
一度は断ち切ったはずの菜々美との関係を、
僕は自分から復活させた。
そうするしか……自分を抑えようがないと思った。
もしも……自分の欲望が、際限なく暴走してしまったら。
下着を汚すどころか、姉さん自身になにかしてしまったら。
そう考えたら、寒気がして止まらなくなって、
気づいたら……菜々美に連絡をとっていた。
「精液びゅーびゅーすることしか、
もう頭になくなってしまったんですか?
ご立派な教祖様は、どこ行っちゃったんでしょう…♡」
菜々美の足先が、僕の前でぷらぷらと揺らされる。
靴下は脱いでて素足だった。
足の爪には薄いピンクのマニキュアが施されていて、
そのせいか、かえって肌の白さが際立って見える。
「おちんちん、とっても元気ですね…♪
私と会わないあいだ……ずっと我慢してたんですか♡」
いきり立ったままの竿の裏側が、
足の甲で、とん…と優しく叩かれる。
それだけで、ペニスが自分のお腹に当たりそうなほどに跳ねる。
「それとも……変わらずオナニー三昧でしたか?
馬鹿みたいにどぷどぷ射精しつづけて、
それでも、ちっとも収まらないんでしょうか……♡」
僕の膝の上を、菜々美のつま先がからかうように
すり、すり……とゆっくりと這う。
ズボン越しでも、ぞくぞくとした震えに似た快感が走る。
カウパーが、勝手に溢れだす……。
「教祖様、大好きですものね。
私のえっちな動画で、おちんちんをしこしこ……♡
お気に入りは……ふふっ、そうそう。
お風呂のシーン、でしたね?
覗き魔さんみたいな気分で、人の裸を見ながら……♡♡」
「っ……な、なに言って………」
思い出して、しまう。
菜々美の裸だけじゃない。
姉さんの裸をこっそり覗いた……あの瞬間を。
姉さんのショーツのすべすべの感触、
ブラにたっぷり染みついた甘い匂い。
精液が尿道をどくどく駆け抜けた、あの気持ち良さ……。
「無理して否定されなくていいですよ?
なにも、本当の覗き魔さんじゃないんですから…♪
私が差し上げた動画を見ただけ。
本当に悪いことをしたわけじゃ、ありませんよね……♡」
僕の内もものあたりを、
菜々美のつま先が、すーっ…♪と何度も撫でる。
左をさすったかと思うと、今度は右。それからまた左。
くすぐったさと快感のどちらともつかない、
甘くて優しい刺激が送り込まれつづける。
けど、あまりに、もどかしくて……っ…。
「あ、教祖様。自分で触るのはだめですよ?」
思わずペニスに伸ばしかけた右手が、
足先ですっと払われる。
そん…な……っ……。
「人に射精をおねだりしておいて、
その挙句に我慢できずにオナニーとか……♡
そういうの……いけないと思います♪」
また足がぷらぷらと揺らされる。
つま先がペニスに触れそうで、触れない。
ときおり足先で揺らされた風が亀頭に当たるだけ。
じれったさだけが、どんどん募ってく。
「菜々美……早く………」
「そう言われても困ってしまいます……♪
お忘れではないですよね?
私はなにも、教祖様の奴隷でもなければ、
セフレでもありません。
ただ少し、欲しいものがあるだけです…♡」
机の上にあった僕のノートパソコンを、
菜々美が膝の上に移動させる。
画面がこちらに向けられると、すでにブラウザが起動してた。
銀行のログイン画面だった。
……まさか。
「パスワード、教えていただけますか?
そしたら……してあげます♪」
「…………」
いまこの瞬間までは、どんな対価を求められても
僕は差し出してしまうだろうと……思ってた。
僕には破滅がお似合いだ。
こんな教団も、なくなってしまえばいい。
だから堕ちるところまで堕ちてしまおうと、
そう覚悟を決めていたはずなのに……。
「ふふっ。さすがに教祖様でも迷っちゃうんですね。
いいですよ、べつに急ぎませんから。
それまで少し……遊びましょうか」
ノートパソコンを机の上に戻して、菜々美が微笑む。
ついで、足を持ち上げ、僕の眼前に差し出す。
「ほら……つま先、触ってもいいですよ…♪
おちんちん以外でなら、ですけど……♡」
見え見えの罠だった。
なのに、分かっているのに抗えない。
その小さな足に、両手を伸ばしてしまう。
足の甲はひんやりしていて、すべすべだった。
さっき一瞬ペニスに触れられた快感を思い出す。
足裏はしっとりと柔らかい。
どうしたって、ペニスが擦れることを想像してしまう。
「もっと上も……気になりませんか?」
菜々美の手のひらが、
ふくらはぎ、太もも、スカートの裾……と撫でていく。
真っ白な肌が、薄闇の中で妙にくっきり見える。
触ると気持ちいいですよ、と脚に囁かれてる気がする。
「触るだけなら構わない、と言いたいところですけど。
少しはなにかもらいましょうか……♪
……パスワード、最初の文字はなんですか?」
「………ぅ…」
くるぶしより上に伸ばしかけた手が、止まる。
菜々美の意図に気づいてしまう。
だめだ……いま、やめないと……きっと……。
「大丈夫ですよ、教祖様。
ここのパスワードって最低八文字って書いてあります。
一文字ぐらい、なんの問題もないですよ……♡」
菜々美自身の手が、何度も執拗にふくらはぎを撫でる。
その手つきがあまりになめらかで、
とっても触り心地がいいだろうって想像させられる。
ペニスが、ぴく、ぴく…と耐えきれないように跳ねる。
「……アルファベット……の………」
僕の告げた文字を、菜々美がカタッとキーで叩く。
それから、ふんわりと優しく笑う。
「はい、ありがとうございます…♪
ならいいですよ……膝から下は、ご自由に♡」
言われた途端、菜々美の脚に飛びついてた。
ふくらはぎに両手を当てて、その感触を貪る。
ベビーパウダーでもまぶしてるみたいにさらさらで、
撫でてるだけで、背筋が震える。
「ふふ……おててで触れるだけで大喜びですね。
びゅーびゅー射精できるわけでも、
おちんちんが気持ち良くなれるわけでもないのに…♡」
くすくすと笑われるたび、ペニスがひくつく。
足に擦りつけることも、手で扱くこともできない。
いっそ触らずに射精できれば、とも思う。
だけど、このままじゃ、それさえ……。
「次は……そうですね、三文字ほど教えていただけますか?
そうしたら……ふともも、触っていいですよ♡」
「…………ぁ……」
勝手に口が動く。
心の奥で、血の気が引くような恐怖が広がる。
でも、太ももから目が離せない。
触りたい……さわりたい………。
「これで四文字、と……♪
じゃ、教祖様……どうぞ♡」
「う、うん……」
上半身を持ち上げ、膝立ちで一歩前に進む。
ほとんど身体を投げ出すようにして、太ももにすがりつく。
鼻先数センチまで、きめ細かな肌が近づく。
年下の女の子の、菜々美の匂いがする。
上品で甘酸っぱいのに、なぜか頭の芯がとろける香り。
右の太ももを両手で挟んで、無我夢中で撫でる。
ふくらはぎよりも、ほんのりあったかい。
手を強く押しつけると、柔肉が少し沈み込み、跳ね返る。
むにむにっ…とした弾力が、たまらない。
それに……。
(……ぁ………スカートが………)
太ももの奥に手を抜き出しするたび、
スカートの裾が、ふわっ…とかすかに浮かぶ。
いまにも、パンツが見えそうだった。
つい、奥の方を撫でてしまう。
スカートの裾が、ひらひらと小刻みに揺れる。
でも、ショーツはぎりぎり見れない……。
「教祖様、パンツ見たいんですか…♡」
「っ……」
慌てて顔を上に向けると、
にんまりと口元をほころばせた菜々美がいた。
「じゃあ、また三文字……と思いましたけど♪
パンツ見るだけなのも、かわいそうですよね」
スカートの裾が一瞬持ち上げられ、また落ちた。
黒いショーツが見えた、ような……。
「私のここに顔をうずめても、いいですよ……♡
パンツの匂いくんくんしながら、
ふとももで、ほっぺをぎゅー……♡♡
教祖様、きっとそういうの、お好きですよね♪」
ペニスが、ぎちっ…と音を立てそうなほどに膨らむ。
そんな……そんなの……我慢、できるわけ………。
「ついでに、おまけも付けちゃいます。
足でおちんちん、いっぱい触ってあげます♡
びゅるるー♡って、できちゃいますよ。
そのかわり……残りの文字、ぜんぶ教えてください♪」
「なっ……」
無理に決まってる。
いくらなんでも、そんなの言えるわけ……。
「いいじゃないですか、いまさら♪
教祖様も本当は……分かってるんじゃないですか?
ここまで来たら引き返せないって……♡」
ペニスに、足の甲がしゅるっ…と擦れた。
たったそれだけなのに、下半身全体が甘く痺れる。
倒れそうで、太ももにさらにしがみつく。
視界いっぱいに、菜々美の白い肌が広がる。
スカートの奥もさらに深くのぞき込めてしまう。
黒のレース、かもしれない。
「教祖様がどれだけ悩むふりをしても、
早いか遅いかの違いだけ、なんですよ…♪
だって、そうでしょう?
このまま射精せずに終われますか……♡♡」
……このまま、なにもせずに終わってしまう?
勃起したペニスを放置されたまま、
菜々美が立ち去ってしまう?
そんなことになったら、僕は………。
「想像ですけど……なにか私を呼び戻した理由が、
教祖様にはあったんじゃないですか…♪
えっちなことせずにいられない、なにかが……♡」
(………そうだ)
思い出す。
姉さんの裸で、姉さんの下着で、射精してしまったこと。
与えられる快楽に溺れるよりもっと最低の、
自分の欲望のために他人を傷つける行為。
またあんなことを、するぐらいなら……。
「さ……教えてください」
スカートの端が指でつままれ、ゆっくり持ち上げられる。
やっぱり、黒だった。
繊細なレースがちりばめられた淫靡さと、
小さなリボンの可愛らしさが同居してる。
女の子の下着を見つめながら、幾つかの文字を口にする。
菜々美が片手でキーを叩き、満足そうに息を吐く。
「ん、よくできました…♪
では、ご褒美どうぞ……♡」
菜々美が足を少し開く。
生じた隙間に、たまらず頭を潜り込ませてしまう。
女の子の匂いが、むわっ…と鼻と喉に絡みつく。
股間に血が流れ込み、亀頭が破裂しそうに膨らむ。
「……っ………ぁ…っ………」
息を吸うと、さらに濃密な女の子の匂いがする。
肺いっぱいに溜めたその空気を吐き出すと、
ショーツに吐息が跳ね返り、まぶたや目元を湿らせてく。
年下の女子高生の、それも信者の女の子のパンツに
顔をうずめて深呼吸してしまってる。
僕はなんて気持ち悪いんだろうと思えば思うほど、
なぜか深く甘い陶酔感が広がる。
「くすっ……教祖様、ワンちゃんみたいですよ?
おあずけにされてたご飯に、
やっとありつけたみたいな喜び方です。
こういうの……ずっとしたかったんですか♡♡」
こくこく、と頭を動かしてしまう。
鼻筋がショーツにすりすり擦れて、それがまた気持ちいい。
レースのざらついた感触が混じるのも好きだった。
菜々美の言うとおり、こういうことがしたかった。
最近は用事で街中に出ても、
セーラー服の女の子をいつも目で追ってしまってた。
胸の膨らみを眺めて、スカートのひらひらに心奪われて。
電車の向かいにスカートの短い子が座るたび、
こんなふうに欲望のままに匂いと感触を味わいたかった……。
「さて、あとは……ふともも、でしたね♡
はーい、お顔をぎゅっ……♡♡」
太ももが、左右から僕の頬を優しく包む。
両腿を擦り合わせるみたいに、菜々美が身じろぎする。
すべすべの太ももが、頬にたっぷり擦れてく。
「ん……ぁ……っ……」
射精感がいきなりこみ上げる。
ペニスに触れられてないのに、出ちゃいそうだった。
菜々美の匂いと、体温と、やわらかさに包まれてるだけで
身体が勝手に射精しようとしてる。
あぁ……でも……まだ……っ……。
「ふふっ、大丈夫ですよ、教祖様…♪
パンツにお顔くっつけて、ふがふがなさってたって
おっしゃりたいことは分かりますから。
おちんちん……ちゃんと触ってあげます♡」
ひんやりした素足が、竿を両側からぴったり挟み込む。
すでにペニスはカウパーまみれで、
菜々美の小さな足が、ぬるり…と滑る。
射精感がまた膨らんで、必死にそれに耐える。
まだ……もっと、もっと………。
「…………♡」
菜々美の足裏が、ペニスを弄ぶ。
亀頭を足裏でこね回したかと思うと、
カウパーに濡れた竿を挟み込んで、上下に扱く。
にゅるにゅるとした甘い感触に、
身体の力が抜けそうになる。
精液がいまにも噴き出しそうで、腰の奥が蠢く。
少し冷たかった菜々美の足が、
ぬるま湯に浸かったみたいにあったかくなる。
顔に押しつけられるパンツや、
頬に密着してる太もものぬくもりも、心地いい。
ふわふわした浮遊感が、全身を包み込む。
(あ……ぁ………)
射精をこらえることが、もうできそうにない。
ペニスが脈打ち、射精の準備に入る。
「あ……出ちゃうんですね♪
なにもかも捧げておちんちん気持ちよくなれたのに、
もう終わっちゃうんですね……哀れな教祖様♡
……でも、それなら」
ふわり、となにかが後頭部にかかる。
スカートだ、と遅れて気づく。
僕の頭にかけたプリーツスカート越しに、
菜々美が頭を撫でてくれる。
「思い残すことのないように、
たくさんたくさん出しましょうね……ほら♡♡」
菜々美の足が、竿を根元から先端へと勢いよく撫でる。
にゅるり…と一際強い快感が走って、それで。
……びゅるっ……びゅく…っ……びゅるるっ……!
大量の精液が迸る。
スカートに頭を突っ込んでいて見えないけれど、
尋常な量じゃないのが身体で分かる。
尿道を駆け抜ける精液の勢いが強すぎて怖いほどなのに
その外側から菜々美の足が、にゅこにゅこ…と竿を扱く。
「…う…ぁ………あああぁ…あぁ…っ……!」
あまりの快感に、菜々美の脚にもっとしがみつく。
手のひらに太ももが触れて、
思わずその感触を貪るように乱暴に撫で擦る。
オナニーのたびに呆れるほどに妄想したその肌を、
触って、触って、触りまくりながら、また射精する…っ。
「いっぱい、いっぱい出していいですよ……♡
それだけのものを、教祖様は差し出したんですから♪
女の子の足とパンツのために、
人生投げ捨てちゃったんですから……♡♡」
精液も絡んで、さらにぬるぬるになった足裏が、
竿をゆったりと往復する。
精液がなおも溢れてくる。
まだ出せる……まだ……射精、するんだ………。
「では、私はこれで♪」
足にこびりついていた精液をハンカチで拭きおわり、
菜々美が立ち上がる。
僕はといえば、いまだに床に座り込んだまま、
呆然として射精の余韻に浸っていた。
「ああ、それと……分かってらっしゃると思いますけど、
念のためにお伝えしますね」
「…………?」
ぼんやり、菜々美を見上げた。
短いスカートからは、下着が見えそうだった。
ついさっきまで、そこに頭を突っ込んでたのに、
いまもそんなことを思ってしまう。
「これでもう、欲しいものはぜんぶいただきました。
教祖様は用済みです…♪」
「え……?」
「なに情けない顔なさってるんですか。
しっかり、してください。
明日からまた、皆さんの前に立つんですよね?
笑われちゃいますよ……♡」
菜々美がドアを開ける。
やっと、気づく。
そうだ。彼女にとって、僕の利用価値はもうない。
「待っ……」
「もう遅いですよ。
とってもお馬鹿な、おにいさん……♪」
* * *
それから数日のことは、ほとんど記憶がない。
もっとも、寝込んだりしたわけじゃない。
まるで一部のプログラムだけが残ったロボットみたいに、
教祖のふりを続けてたことだけは覚えてる。
やっと思考能力が戻ってきたころには、
なにもかもが手遅れだった。
教団の口座は暗証番号もパスワードも変更されて、
もはや僕の手を完全に離れてた。
通帳や印鑑も消えていて、どうしようもなかった。
警察に届けることも考えたけれど、
それは……僕が彼女としたことを白状するようなものだ。
言えるわけが、なかった。
でも、どちらにせよ教団は資金不足でまもなく破綻する。
そうしたら……なにもかもが白日の元に晒されて、
僕は………。
「――くん、どうしたの?」
深雪姉さんの声に、はっとする。
自分がいま、どこでなにをしてたのか一瞬分からない。
リビングのソファに座っていて、
手には姉さんが淹れてくれたコーヒーがあった。
残り少しだけど、だいぶぬるくなってる。
知らないうちに、またぼうっとしていた。
「あ……ごめん、なんでも、ないんだ……。
またちょっと、疲れてるの……かな」
「……ほんとにそれだけ?」
姉さんが僕の左隣に座る。
横から身を乗り出すようにして、僕の顔を覗き込む。
「なにか心配ごと……あるんだよね。
そういうの、分かっちゃうんだよ?」
コーヒーの香りに混じって、姉さんの匂いがする。
子供の頃から慣れ親しんだ、安心できる優しい匂い。
ただ……。
「ほら、目を逸らしたー♪」
「いや、それは、そういうのじゃ……なくて……」
姉さんが着てるのは、すで着古したTシャツだった。
もともとゆったりしたデザインな上に、
襟元の生地もだらりと伸びて、胸元が大きく開いてた。
白い谷間が、惜しげもなく晒されてる。
ブラもつけてない。
そのうえ姉さんの良い匂いがずっとしてて、
どうしても……性的な記憶が混じりそうになる。
僕は、姉さんの下着に……。
「じゃ、どうしたのかなー♪
あ、おっぱい……見えちゃいそうで気になる?」
襟元を指でつまんで、ぱたぱた開く。
乳首まで見えちゃうんじゃないかと思うほどに、
谷間が大きくはだける。
「ね、姉さん……なにして……」
あけすけなところがあるとはいえ、
いままで、こんなふうに接してきたことはない。
なにかおかしい……まさか、また夢でも……。
「あのね……えっちな気持ちになっちゃったなら、
なにもそれを……隠さなくてもいいんだよ?
少なくとも、私には」
「え……」
「ずっと無理してたの……私には、分かるから。
だから……楽にしてあげたいなって、思って」
股間に、しゅるり…となにか細長いものが絡む。
姉さんの指が、ズボンの膨らみにかぶさってた。
理解した途端、どくんっ…とペニスが膨らむ。
すでに勃起してたのが、一気に限界まで硬くなる。
「なっ……だ、だめ……。
そんなところ、きたな……っ……」
「そんなことないよ……♡
汚くもないし、悪いことでもなんでもないよ。
それにー…♪」
姉さんが、にやーっ…と、いたずらっぽく笑った。
「もし汚いなら、お姉ちゃんのパンツにびゅーびゅーって
いっぱい出しちゃったのはいけないと思うな……♡」
「…………!」
ばれ…てた……。
というより、ばれてない方がおかしいと思ってた。
あのとき替えの下着がないことに気づいた姉さんが、
違和感を持たないはずがない。
でも翌日の様子も変わらなかったから、もしかしたらって……。
「ふふっ、怒ってるわけじゃないよ。
ううん……むしろ、嬉しいぐらい。
やっと、自分の気持ちを押し殺すことを
やめてくれたんだな、って」
しずかに囁きながら、
そのあいだも姉さんの指はずっとペニスをさすってる。
気になるものを見つけた小動物みたいに、
ズボンの上から、亀頭をすりすりと擦りつづけてる。
(……う…ぁ………)
服越しのごく弱い刺激なのに、
姉さんにされてると思うだけで、異様に気持ちいい。
ここ数日、呆けてオナニーすらしてなかったのもあって、
あっというまに射精感が湧き起こる……。
「ね、姉さん……ほんとに、だめ……。
で………出ちゃう…から……」
「だからいいんだよ、出しちゃっても……♡
したいように、すればいいの。
たとえば……じーっと見ちゃってるおっぱいも、
触っていいんだよー……ほら♪」
僕の左手をとって、Tシャツの中に滑り込ませる。
襟元がぐにゃりと伸びて広がり、
乳首が見えたかと思うと……それを僕の手が覆ってしまう。
むにゅり……と、姉さんのおっぱいを揉んでしまう。
菜々美のより、もっと巨乳だった。
ぎゅっと掴むと、手のひらから溢れそうに大きく重い。
ふと、シャワーを覗きながらブラを嗅いだことを思い出す。
ブラに染みついた、おっぱいの甘い匂い。
想像するしかなかった姉さんの胸を、いま揉んでて。
「……ぁ……だめ………あぁぁああぁぁ…っ……!」
いきなり暴発する。
ズボンをぎゅうぎゅうと突き上げながら、
姉さんの指の感触をねだるように、びくびく射精する。
身体も跳ねて、右手に持ったままのカップから、
びちゃびちゃとコーヒーがこぼれてく。
「わ、すぐ出ちゃった……♡♡」
たちまち、股間があたたかくぬるんだ感触にまみれてく。
ペニスの律動は、なかなか終わらない。
数日分の溜め込んだものを吐き出すように脈打ち、
姉さんの指も嬉しそうに、亀頭の辺りを擦りつづける。
出してしまった後悔が、受け入れられてる安堵にすり変わり、
また精液が上ってくる…っ。
「ん……また、びくびく……♡
いっぱい出てるね……♪
それだけいっぱい、我慢してたんだよね。
うん、よしよし……♡♡」
「…………ぅ……」
まだ射精が完全には終わっていないのに、
もう次を期待するようにペニスが硬くなりはじめる。
指に力を込めて、おっぱいのやらかさを味わうと、
すぐにまた射精直前の大きさを取り戻す。
「ズボン、べとべとになっちゃたね……♪
ちゃんと拭かないと、風邪ひいちゃうよー。
あ、コップも片付けないと」
ほとんど空になったコーヒーカップが取り上げられ、
机の上に片付けられる。
ついで、ズボンと下着が脱がされてく。
なすがままだった。
なんでこんなことになってるんだろう、とかすかに思う。
でも、姉さんの体温と匂いがそれを塗りつぶす。
いまは……難しいことや怖いことを、考えたくない……。
「あ、おちんちん、おっきいままだー♡
うん、そうだよね……。
小さな頃からずーっと我慢してたんだから、
簡単には収まらないよね。
それじゃー…♪」
姉さんが一度立ち上がると、
正面から僕の身体をまたいで、ソファに膝立ちになる。
ちょうど胸の谷間が、僕の顔の高さだった。
胸元は完全にはだけて、左のおっぱいは外にこぼれてた。
ソファのクッションがわずかに沈み込むたび、
真っ白の大きな乳房も、たぷ、たぷ…と小刻みに揺れる。
「ふふっ。おっぱい、すごい見てるー……♡
そんなに気になるなら、
もっと早く言ってくれたら良かったのにって思うけど…♪
……でも、きっと無理だったんだよね。
いまやっと素直に見てくれるようになったんだよね。
えへへ、嬉しいな……♡♡」
姉さんがペニスに両手を絡める。
愛おしそうに、僕の性器をぜんぶの指で撫で回す。
姉さんにこんなことをしてもらってる。
どうしようもない後ろめたさを感じてるのに、
なぜか……奇妙な安心感もある。
このまま心地良さに身を委ねたい。
姉さんの気持ちのいい身体に、溺れていたい。
そう思ったら……頭を、ぽふっと谷間に預けてた。
「んー、どうしたのかな♪
おっぱいに甘えたくなっちゃった?」
「………うん…」
まるで幼児みたいに、うなずいてしまう。
鼻先が乳房にあたって、やわらかさがよく分かる。
そのうち、手が勝手に動いて。
「はーい、今度はまた、おさわりだねー♪
さっきみたいに、たくさんどうぞー♡♡」
谷間に顔を埋めながら、
その重量感たっぷりの巨乳に手を沈める。
片手はTシャツの外にこぼれたものを、
もう片方の手はシャツの中に潜り込ませる。
「ふ……ぁ……」
むにむにした感触が、手のひらいっぱいに広がる。
乳肉がたわむのを感じながら、
谷間そのものを、もっと顔に押しつける。
あのときブラを嗅いだのより、
ずっと濃密なおっぱいの匂い……。
「もう……そんなにくんくんされたら、
さすがに恥ずかしいなー♡
でも、いいよ……♪
気持ち良くなれるならなんでもしてあげる……♡♡
それこそ、おっぱいだってあげちゃうよー」
「っ………」
「あれー…♡ ほんとに欲しいんだー♡♡」
姉さんがわずかに腰を浮かした。
乳首が、僕のあごの辺りに擦れる。
それで……気づいたら、おっぱいに吸いついてた。
「ちゅーちゅーって、していいよ……♡
もちろん、ミルクが出たりはしないんだけど…♪」
言われるがままに、舌の上の乳首を吸ってしまう。
小さく尖った乳首が、僕の唾液に濡れてく。
風呂場を覗いたあの日。
シャワーを浴びながら、ぱしゃぱしゃと水滴を弾いてた、
姉さんの大きなおっぱい。
あの巨乳に、むしゃぶりついてる…っ。
唇にも、ふにふにした乳房の弾力が押しつけられる。
手のひらで乳房を持ち上げ、その甘い重みを感じる。
もう一方の手は、思うままに胸をまさぐる。
どこもかしこも、やらかくて、あったかくて、
こんなの……頭が、おかしく……っ……。
「おちんちん震えてる……♡
また、どぷどぷーってしちゃいそうだ……♡♡」
言われて気づく。
射精感が、もう限界まで膨らんでた。
とっさに、まだ出したくない、と思ってしまう。
まだこの時間に浸っていたい。
だけど、姉さんの手は少しも止まらない。
「いつでも出しちゃっていいからね……♪
服が汚れるとかは気にしないで……って、
ふふっ、それは心配いらないかな。
気持ち良くびゅーびゅーするためなら、
お姉ちゃんのパンツだって汚しちゃうんだし♡」
「………ぅ…っ……」
恥ずかしさで、顔から火が出そうだった。
それを隠したくて、もっと胸に吸いつく。
ちゅぱちゅぱと音がしそうなほど、乳首をしゃぶる。
姉さんが笑いながら、カウパーまみれのペニスを弄ぶ。
竿を根元からにゅこにゅこ扱きながら、
同時に、鈴口に手のひらを押しつけてごしごし擦る。
「……ん…ぅ……っ……」
腰から先が、じんじん熱い。
もう出てしまう。
それが分かるから、姉さんの胸にいっそう強く吸いつく。
「ん……出ちゃうね。
でも大丈夫。ちっとも悪いことじゃないよ。
射精するのは、とってもいいことなんだから。
だから、安心してどぷどぷしようね……♡」
赤ちゃんをあやすみたいな、慈愛のこもった声。
僕に囁きながら、亀頭を優しく一撫でして。それで。
「…ぁ…っ……あっ……あぁああぁぁあぁ……っ…!!」
精液が噴き出る。
お姉ちゃんは「大丈夫、大丈夫…♪」と囁きつづけながら、
ペニスをゆったりしたペースで扱きつづける。
お姉ちゃんの服や体に、びたびたと精液が降り注ぐのが
見えなくても分かってしまう。
「いっぱい出すと、おちんちん気持ちいいねー…♡
すごく幸せな気分になれるよね……♪
だから、これは良いこと。
お姉ちゃんとえっちなことするのは、良いことだよ…♡」
まるで背中を撫でてもらってるみたいな、
不思議な心地良さの中で、とぷとぷと精を漏らす。
お姉ちゃんの乳首をちゅうっと吸うたびに、
ペニスがひくつき、精液が後から後から溢れてくる。
腰がひとりでに動いて、お姉ちゃんの手に甘えちゃう。
ずっと、ずっとこうしていたい。
お姉ちゃんのおっぱいに抱きついたまま、
ただただ精液を漏らしていたい………。
「――くん、落ち着いた?」
「う…ん………」
射精が終わって頭が冷えてきても、
自分がいまいる状況が信じられなかった。
自慰という過ちを僕が犯したことがあるとはいえ、
昨日まではたんなる仲の良い姉弟だったのに……。
後悔してるとかじゃなくて……ただ信じられない。
……それに。
「姉さんに……言わなきゃいけないことが、あって」
こんなことになっても、
いやこんなことになってしまったからこそ。
姉さんには真実を話さないといけない。
教団の資金のことも、菜々美としたことも。
「その前に……私も言わなきゃいけないことがあるの。
どこから言えばいいのかなって思うんだけど……」
可愛らしい困り眉を作って、
それから姉さんはふんわりと微笑んだ。
「まずは……♪
もう入ってきていいよ――菜々美ちゃん」