最低ラバーズ(前編)

「えと………メリー、クリスマス」

玄関の扉を開けてくれたゆかりが、恥ずかしそうに呟いた。
メリークリスマス、と僕も言い返したけれど、声がかすれてしまった。
お互い見つめあって苦笑してしまう。
それでちょっと緊張がほぐれる。

「寒かったでしょ? 早くなか入って。
 なにかあったかいもの淹れるから」

促されるままにマンションの一室に上がる。
イブの日に、彼女の部屋に招かれる。
それがなにを意味するかは明白だった。
でも、なるべくそのことを意識しないようにして歩く。

家のなかは綺麗に片付いていて、生活感があまりない。
けど、それも当然のことかもしれない。
彼女がこの土地に引っ越してきて三ヶ月しか経ってない。
そう思うと、ゆかりと一緒にクリスマスを過ごせることが
あらためて奇跡みたいに思えてくる。

「ココアでいいよね?
 小野くん、意外と甘党だもんね」

うなずくと、ゆかりはお湯を沸かしはじめる。
ソファに座って、恋人の横顔をぼんやり見つめる。
二学期になって転校してきた彼女に一目惚れして、
玉砕覚悟で告白して……オッケーしてもらえて。
それで僕らは付き合いだした。

デートさえ数えるほどしかしていないし、
もちろん彼女を抱いたこともない。
だけど今日がその日になるんだろうって、
そんな予感がしてる。

「はい、熱いから気をつけてね」

差し出されたカップを受け取る。
カップを持っているだけでも、かじかんだ指先がほぐれて
気持ちもいっしょに楽になってくる。

ゆかりが隣に座る。
ぴったりしたセーターを着ているせいで、身体のラインが浮き上がってる。
大きな膨らみを持ったなめらかな曲線に触りたい。
その欲望を必死におさえて、ゆっくりココアを飲む。

「ね……変なこと聞いてもいいかな?」

カップの中身が半分ほどになったところで、ゆかりがおずおずと切り出した。
照れくさいことでもあるのか、顔を隠すようにうつむいてる。

「あのね、その…私で、ね…………」

「……どうしたの? なんでも言ってよ。怒らないから」

「うんっ……えっと、ね…私で……私でオナニーしたこと、ある?」

カップを持つ手が止まる。
彼女を見つめなおすけれど、やっぱりうつむいてて。
でもそれ以上なにも言わないのが、かえって真剣味を感じさせる。
とてもとても奇妙な質問だけど、
いい加減に答えちゃいけないって思う。

「…………ある、よ」

本当のことだった。
恋人ではそういうことはできないって人もいるけど、僕は違う。
ゆかりのことが好きすぎて、想像の中でも彼女ばかり抱いてしまう。
性器をくわえさせたり、綺麗な肌に精液をなすりつけたり、
あさましいイメージばかり描いては自慰にふけっていた。

「……そっか。…………そうなんだぁ……」

とても不思議な声音だった。
僕のことを軽蔑するのでもなくて、怯えるのでもなくて、
かといって愛情たっぷりというわけでもなくて。
ほっと一息つくような、安堵にも似た幸せそうな声だった。

その声のせいだろうか、なんだか僕まで穏やかな気持ちになる。
疲れてベッドに倒れ込むときのような感じがする。
身体があたたまったせいだろうか、少しだけ、眠い……。

「ひょっとして、眠くなっちゃった?
 目がちょっとぼんやりしてる」

そうかな?とまぶたをこすって見るけれど、
そんな些細な動作すら億劫に感じられた。

「眠かったら、寝てもいいよ……。
 今日は一日、誰も私たちの邪魔はしないから。
 ゆっくり眠って……それで、気持ちのいいことはあとでしよ……ね?」

ゆかりの手が僕の肩や首筋をゆっくりと撫でる。
その優しい感触がとても心地よくて……意識がすぐに遠くなっていく。
あったかい闇のなかに、すうっと落ちていく。
どんどん………落ちて……いく…………。
 
 
 
 
 
 
目が覚めたのは、強い尿意のせいだった。
早くトイレに行かないと……と、ぼんやり思いながら、
身体を起こした、起こそうとした。だけど。

「……つ…っ!」

手首に鈍い痛みが走って、思わず呻いた。
痛みにうずくまろうとして、でも今度は足首に似た痛みが走る。
ガチャガチャとおかしな金属音ばかりする。
目を開けたけれど、周囲は暗くてなにも分からない。

人の足音がした。
部屋の明かりがつく。
そこはたしかに眠る前と同じ場所だった。
ただ、僕は……手足を拘束されて床に転がっていた。
しかも手首は後ろ手にされた状態で拘束されてる。

服を脱がされたり、乱暴された形跡はない。
さっきの痛み、たぶん手首を手錠に打ちつけた痛み以外には、
とくに怪我をしてる様子もない。
とっさにそんなことを確認する。

「あ、小野くん……目が覚めた?
 よく眠れた? とっても気持ちよさそうに寝てたけど」

「ゆか……り…?」

電気をつけたのはゆかりだった。
薄く笑いながらこっちを見下ろしてる。
僕の知らない表情をしていた。

「え……これ、なに?」

「なにって……手錠と足錠だよ?
 ああ、さすがに本物じゃないけど……でも金属製だから
 すごくしっかりしてるでしょ。
 鍵がないと絶対外れないんだよ」

「そういうことじゃなくて……!」

「ふふ、分かってるよ。言いたいことは。
 でもね、すぐに答え教えちゃったらつまらないでしょ?
 ね……私のことが好きで好きでたまらない良い子さん」

ゆかりが目の前に来て、僕の顔の前にしゃがみ込む。
フレアスカートがめくれ上がって、
両脚のあいだから下着が見えていた。
黒い布地の中央が、さらに深く濃く皺になっているのが分かる。

「私のあそこ、気になる?
 そうだよねぇ……いつも私の身体で妄想しながら
 おちんちんしごいてるんだもん。
 間近で見せられたらたまらないよね……でも触れないけど」

見せつけるようにゆかりが腰を少し振る。
まったく状況が理解できないのに、
なのにペニスは条件反射で勝手に大きくなってしまう。
それと一緒に、忘れていた尿意が襲いかかってくる。

「ん……どうしたの?
 大好きな彼女のパンツ見れて嬉しいはずなのに、
 なんで苦しそうな顔してるのかな?」

「トイレ……お願い、トイレ行かせて……」

拘束されている事実のせいだろうか、
僕の声はいかにも哀れっぽい調子を帯びていた。
それを聞いて、あはぁ、と彼女が笑う。

「おしっこ行きたいんだ。
 そっかぁ……あの睡眠薬、利尿作用もあるから当然だよね」

あの異常な眠気はやっぱり薬だった。
そのことに驚く気持ちも、混乱する気持ちもある。
だけど、いまはなによりトイレに行きたかった。

「ん……いいよ、お手洗い行ってきて。
 廊下を突き当たって左にあるから、さあどうぞ」

そう言われるけれど、今の僕は立ち上がることすら難しかった。
手首と足首の動きが制限されていて、
膝立ちになることさえなかなかできない。
それに、無理に力をいれるとこの場で漏らしてしまいそうだった。

「……お願い……手伝って…………立て、ない……」

「あらら、おちんちんは勃てれても、足は立てないんだ。
 だめな子でちゅねえ…………あはっ!
 ……しょうがないなぁ、ここ汚されても困るから手伝ってあげる」

ゆかりに支えられながら、なんとか立ち上がる。
本当ならトイレに駆け込みたいところだけれど、足枷のせいでそれさえできない。
一歩ごとに十センチちょっとしか進まない。

「小野くん、なんだか小動物みたい」

ゆかりがそんなことを言うけれど、言い返す余裕もない。
小刻みに足を動かして、必死に歩を進める。

「ほらほら頑張って。私がここまでしてあげてるんだから」

言葉とは裏腹に、ゆかりは僕に寄りかかるように体重をかけてくる。
シャンプーの香りがかすかに漂う。
薄手のセーター越しに、胸のふくらみが腕に当たる。
ますます勃起がひどくなり、意識を股間から逸らすこともできない。

はぁはぁと息を荒げながら、それでもトイレのドアの前までたどりつく。
だけど、背中側で手錠をはめられているせいで、ドアノブすら回せない。

「開け…て……」

「ドアも開けられないんだぁ……本当に私がいなかったらだめだね。
 じゃあ私が助けてあげるから、あとで私のお願いも聞いてね。
 ……わかった?」

こくこくと頭を振る。なんでも聞くから、早くドアを開けてほしい。
ゆかりはにんまり笑うと、扉を開け、便座の蓋も上げてくれる。

「おちんちん、取り出してあげるね」

勃起したペニスを押さえつけながら、
ゆかりのほそい指先がジッパーを引き下ろしていく。
そしてトランクスの隙間から、大きくなったペニスが取り出される。

「ん、出てきた出てきた。
 なんだか中途半端に勃ってるね……おしっこ我慢してるからかな?
 はい、それじゃあしーしーしようねぇ」

言ってゆかりは一歩後ろに下がる。
だけど扉を閉める気配もなく、じぃっと僕を見てる。

「この……まま……?」

「そうだよ? 見ててあげるから、いっぱい出そうねぇ。
 どうしたの……出さないの?
 我慢しなくていいんだよ、ほら……」

すっと近づいて、背後から僕の下腹部をぎゅうっと押してくる。
たまっていた尿意が破裂する。
意志とは無関係に尿が溢れ出す……!

できるかぎり身体を折り曲げて、ペニスの先端を便器に向ける。
尿道口から少し黄色がかった液体が勢いよく飛び出す。
じょぼじゅぼじゅぼと激しく音を立てながら、どんどん小便をこぼす。

ゆかりが後ろからじっと僕を見てるのを感じる。
排尿の解放感のせいで、その視線さえも快感と錯覚しそうになる。
恋人にはじめて性器を見せつけるのがセックスじゃなくて
小便を垂れ流している姿だなんて…………あぁ……。

「……終わった?
 ふふ、気持ちよさそうな顔してるねぇ。
 あ……おちんちん、おしっこまだ垂れてるよ、ちゃんと拭かないと」

そう言われても、手を動かせない僕にはなにもできない。
ゆかりは黙ってどこかに行って、でもすぐに戻ってきた。

「はい、これで拭いてあげる」

また背後から手が伸びて、ペニスが黒っぽい布で包まれる。
少しざらざらとした感触が、竿の表面をこすっていく。
布には幾筋もひだがあって……これって……。

「気づいた?
 そ、これは制服のスカートなの。
 心配しなくていいよ……もういらないやつだから」

たしかにそのスカートは僕らの学校のものじゃなかった。
たぶんゆかりが前にいた学校か、あるいは中学校のときのか。
だけど……どっちにしたって彼女が穿いていたことには変わりない。
あの形の良いお尻が毎日のように触れていた布。
それでペニスを丁寧に拭かれてる……!

「……あれぇ、どうしたのかな?
 小野くんのあそこ、また大きくなってる。
 おしっこまだ残ってた?
 それとも違うものが出したくなってきたのかな?」

なにもかも分かっている口調で、あえて彼女は聞いてくる。
ごまかすことなんてできなかった。
肉棒はがちがちに固くなり、急角度にそそり立っていた。

「じゃあ、せっかくだからこっちも出しちゃおうか。
 気持ちよぉく、ぴゅーぴゅーしちゃおうねぇ。
 こんなスカートなんてどろどろに汚しちゃおうね」

汚れをそっと拭きとるような動きから、
竿を激しくしごき上げるものへとゆかりの手つきが変わる。
幾重にもなった布でペニス全体がごしごしこすられる。

「……ぁ……ん……っ」

こんなことで気持ちよくなっちゃいけないって頭のどこかが言う。
手足を拘束されて犯されるなんておかしいって思う。
だけど抵抗しようにも、唇を噛んで目を見開くのが精一杯だった。
そんなのは、裏筋をぐりぐりと押されただけで力をなくしてしまう。

「ねえ、気持ちいい?
 女の子のスカートでしこしこしてもらうの好き?」

ペニスはすっかり見えないけれど、
だんだんと布地の奥でにちゃにちゃという音がしはじめる。

「とってもいい顔……女の子のスカートでしごかれて、
 あへあへ喘いじゃう変態さんの顔してる。
 いいよ……もっともっとよがって。
 気持ちよければなんでもいい、どうしようもない人になってね」

どうしてそんなことを望まれるのか分からない。
だけど恋人にそんなふうに言われたら、快楽に抗えなくなってしまう。

筒状に丸められたスカートがペニスを上下にこすり、
かと思うと、布地の感触を教え込むみたいにぐるぐると回される。
性器のあらゆるところが、ゆかりの服で侵されていく。

「贅沢だよねぇ。
 可愛い女の子にスカートオナニー手伝ってもらえるなんて。
 小野くんが毎日いやらしいことばっかり考えてたから、
 ふしだらなサンタさんがプレゼントくれたのかもね……ふふ」

さらに手の動きが激しくなる。
布地が破れてしまうんじゃないかっていうぐらい、
激しくペニスの先端がスカートの穴を突く。

「こうやって先っぽが壁に当たる感じ、いいでしょ。
 子宮を突いてるみたいだなぁ……とか想像しちゃう?
 ん……なんだか匂いもきつくなってきたね。
 もうこのなか、カウパーでどろどろなのかなぁ。
 ね、見ちゃおうか……このなか私に見せつけちゃおっか」

重ねていた布をゆかりがそっと開いていく。
にちゃあっ……という猥褻な音を立てて、最後の一枚が開かれる。
亀頭はもちろん、竿の半ばまでが透明な液体で光っていた。
言うまでもなくスカートもぐっしょりと濡れて、濃く暗く変色していた。

「うわぁ……もうぐちょぐちょだねぇ。
 下着でさえないのに、こんな布切れでしごかれるだけで興奮してるんだ。
 あぁ、本当に……なんて素敵にだめな人なんだろう。
 もう早く射精したくてたまらないんだよね。
 この先っぽから白いのを飛ばしたくてしょうがないんだよねぇ」

ゆかりはわざと亀頭を露出させたままペニスを包み、
またゆっくりとしごきはじめる。
トイレの小さな白熱灯のもとで、紺のスカートの先から
表面をてかてかと光らせた亀頭が見え隠れする。

「こうしてると、おちんちんの先っぽから、
 とろっ…とろっ…って液が出てくるのが自分でよく見えるよねぇ。
 ちゅくちゅくっ…って音も聞こえる。
 スカートにくっついて糸引いてるのも丸分かり。
 本当にやらしいねぇ………」

彼女の言葉を聞くたびに、快感が小さく破裂する。
根元が震えて、カウパーが少し跳ね上がり、
ぽたりと垂れて便器の中へと落ちていく。

「そろそろ出ちゃいそうかなぁ。
 おトイレで女の子に手伝ってもらいながら射精しちゃおうね。
 ほら、またぜんぶ覆ってあげる」

スカートが再びペニスの先端までをしっかり包む。
そのまま優しく搾るように、圧迫されながらしごかれる。
布の端が陰嚢にさわさわと触れる。
ぞくぞくするような、我慢しようのない気持ちよさが膨れあがる。

「ん……いいよ、たっぷり出してね。
 思いっきり、白くて粘っこいのを吐き出して……。
 こんなオナホがわりのスカートなんて、
 二度と穿けなくなるぐらいどろどろに汚してあげて」

ゆかりの望みに応じるようにして精を放った。
尿道口の先から、熱い粘液が溢れ出すのを感じる。

ぶじゅるっ……ずちゅっ………びゅぶ…っ……!

布地に囲まれた狭い空間のなかで、
精液が醜い音を立てながら吐き出される。
亀頭が布地にぬるぬるとこすれ、精液をスカートに染みこませていく。
もっと、もっと染み込ませたいと願うように、
何度も何度もペニスがひくつき震えて精を迸らせる。

→ 後編へ