「しかし、ほんとに人いっぱいだね」
「そうだね、はぐれないようにしないと」
そう言って、僕はそっと涼子(りょうこ)の手をとった。
涼子がちょっと驚いた顔をして、こちらを見る。
でも自分の照れた顔を見られるのが恥ずかしくて、
僕は彼女の視線に気づかないふりをして、辺りを見渡す。
周囲はどこまでも人に埋めつくされている。
ここは駅から花火会場までの道の途中だった。
会場までは徒歩で数分と聞いていたのだけれど、
このぶんだと三十分はかかるかもしれない。
「もしかすると、スタートに間に合わない、かな?」
心配になって呟くと、涼子が隣で笑う。
「いいよ。どこからだって花火は見えるもん。
二人で一緒に見れたら、それでいい」
その笑顔を恥ずかしくて正視できない。
僕らはまだ恋人になってから一ヶ月も経っていない。
エッチだってまだしていなくて、今は手を繋ぐのでさえ精一杯だ。
涼子はきっと僕のことを「頼りない」と思っていると思う。
実際、大学生の彼女から見たら、高校生の僕なんてガキみたいなものかもしれない。
でも彼女の前では、少しでいいから一人前の男として振舞っていたかった。
そんなことを考えていた矢先だった。
どこかの道が空いたのだろうか、人ごみが一気に動いて、僕らはその動きに飲み込まれた。
しっかりと握っていなかったせいで、涼子と繋いでいた手も離れてしまう。
一分もしないうちに人の動きは収まった。
けれど、かわりにさっき以上に人ごみの密度が高くなっていた。
ラッシュ時の満員電車のように、ほとんど手足さえ動かすことができない。
気がつくと、涼子が僕の隣にいなかった。
あわてて周りを見渡すと、幸いすぐに見つけることができた。
人をあいだに5~6人ほど挟んで、3メートルも離れていないところにいた。
涼子はかるく首をかしげながら、視線で「大丈夫?」と聞いていた。
僕はうなずいて、大丈夫だと知らせる。
なんとか向こうに行こうと思ったが、どうやっても動きがとれない。
とにかく混雑がなくなるまでは、目を離さないようにするしかなかった。
でも、そこから人波はまったく動かなくなった。
ひょっとすると誰か倒れるとか、なにかあったのかもしれない。
とにかく一歩も先に進めなかった。
僕は落胆して、ため息をつく。
そのため息がかかったのだろうか、僕の前にいた女の子が顔だけ振り返る。
身長差が少しあったので、女の子がこちらを見上げる形になる。
たぶん中学二~三年というところだろう。まだ幼さの残る顔つきをしていた。
「お兄さん、ひとりで花火大会に来たんですか?」
口調は丁寧なのに、言っている内容はまったくもって無礼だった。
せっかく可愛い顔してるのになぁ…と思いながら、言い返す。
「違うよ。ちゃんと彼女連れ。ちょっと離れ離れになってるだけ。
ほら、あそこにいるよ」
あごで涼子を指し示してから、ついでに付け足す。
「な? 美人だろ」
「ほんとだ。美人さんですね。……あーあ、かわいそう」
「かわいそう、ってなにが?」
「お兄さんみたいな人と付き合うなんて、人生損してるな、ってこと」
数秒、僕は絶句してしまう。
涼子が、少女と話す僕を不思議そうに見ているのがわかる。
周囲の喧騒のせいで、話の内容は聞こえていないんだろう。
「いきなりバカにされて、びっくりしました?」
そりゃ…と僕が言うより早く、少女は続けざまに聞いてくる。
「それとも興奮しました?」
女の子はまるで花がぱっと開くみたいに、にこやかに笑った。
そこで僕ははじめて、彼女が朝顔の柄の浴衣を着ていることに気づく。
それと、僕の股間がこの子のお尻とくっついていることも。
「あ、なんかお尻がこそばい。……ピクッてしました?」
「しっ、してないよ」
「ウソばっかり」
女の子は身体をかすかにくねらせ、お尻を僕のアソコにこすりつけてくる。
「ちょっ…やめろ」
「やめろって、なにがですか? 私はなにもしてませんけど」
「いま、その、お尻を……」
「なんの話ですかー。会ったばかりの女の子にセクハラですか。
大声上げてもいいんですよー」
大声どころか、少女がちょっと声高に周囲に助けを求めるだけで、
僕は大変なことになるだろう。
いまのところ、涼子は気づいていない。
周囲も他のカップルばかりで、それぞれ自分たちの話に夢中で、
僕らの会話は聞きとがめられていない。
でも、それもこの子が声を張り上げれば全部終わりになる。
自分の状況を認識して、僕は恐怖が背筋をはい上がるのを感じた。
でも、なぜかそのゾクリとした恐怖が、ゾクゾクとした快感とすり変わる。
それで、ペニスがビクッと大きく脈打ってしまう。
「はい、また跳ねましたねー」
上手にピアノが弾けましたねー、と子どもを褒める先生のように少女は言う。
その声に合わせて、またピクピクとペニスが震える。
「なんで……こんなこと」
「私も友達とはぐれてヒマだったんです。
そしたらお兄さんがいたので。一目見て、変態さんだってわかる顔のお兄さんが」
「そんな顔、してない」
「してますよ。私、そういうのわかっちゃうタチなんです。
小ばかにされたり、なじられることで喜ぶ変態さんの顔つきって、すぐわかるんです。
だから……ほぅら」
今度はこすりつけるのではなく、僕に身体を預けるようにして体重をかけてくる。
浴衣とジーンズを隔ててはいるけれど、その柔らかい肉の重みが、
僕のペニスを押しつぶそうとする。
「ほぅら、ほぅら」
ぐぐっ……ぐぐぅっ………
弾力がカリの裏側に伝わり、ペニスがさらに固くそそり立ってゆく。
リズミカルとさえいえるテンポで、少女はお尻を何度も押しつけてきて、
そのたびにペニスの根元がひくつくのが自分でわかる。
「ふふっ、いい顔。
じゃあこうすると……どうですか?」
悪戯っぽい声と一緒に、女の子はほんの少しだけ膝を曲げ、
今度はペニスではなく太股あたりにこすりつけてくる。
しかも僕が穿いているのはダメージジーンズで、腿はとりわけ生地が薄くなっている。
だから、さっきよりも直接的に少女の身体のやわらかさが感じられる。
両腿の前面を、小さく円を描くように、すりすりとお尻が滑っていく。
いつのまにか勃起を抑えようという段階を越えて、僕は射精をこらえていた。
快感に耐える僕に、女の子は囁くように問いかけてくる。
「ねえ、どんな気持ちですか?
人ごみのなかで、自分より年下の女の子にえっちなことされて、お尻でスリスリされて、
それでも気持ちよくなっちゃって、いまにも出しちゃいそうですか?」
僕はなにも答えない。答えられない。
ただ唇をかんで目をつぶり、襲ってくる射精感に抵抗する。
「ふふっ……顔に書いてある、ってこういうことを言うんですね。
なんにも言わなくても、よく分かります。
出そうなんですよね。出してしまいそうなんですよね。
でも、必死に我慢してる。えらい、えらい。
えらいから、ちょっと手助けしてあげます。
もっと我慢しやすくなるように、ひとぉつアドバイス」
お尻の動きが止まり、快楽の波が少しだけ引く。
思わず、僕はつぶっていた目を開く。
目の前には楽しそうに微笑む少女の顔があった。
「右、見てみてください」
それだけ急に言われて、反射的に僕は右を振り向く。
そこに涼子の顔があった。
もちろん、まだ距離は離れている。
僕とこの子の会話も、なにをしているのかも分かってはいないだろう。
それでもなにかおかしな空気を感じ取ったのか、涼子は心配そうにこちらを見つめている。
大丈夫?と涼子の唇が動く。
大丈夫だよ、と笑顔を形作ろうとしたとき、股間に気持ちよさの塊がまた押し付けられた。
情け容赦しない、とでも言うように、一切の加減なく思い切りこすり上げてくる。
僕はぽかんと口を開けたまま、無防備にその快感を受けてしまう。
忘れていた射精感が、一気に駆け上ってくる。
「さあ、イっちゃっていいですよ。
美人な彼女さんの前で、知らない女の子にお尻でズリズリされて
精液どぷどぷ吐き出してください。
ズボンのなかでみじめったらしく、でも思いっきり気持ちよく射精してください」
最後の抵抗として、僕は精神力を振り絞り、腰を引こうとした。
でも、ぎゅうぎゅう詰めになった人ごみのせいで腰を引くことさえできなかった。
逃げ場のなくなった僕の腰とペニスが、ふにふにとした感触に包まれ、
女の子の髪の匂いがふわりとして、それで、涼子が、見て、いて。
どぷっ…! どぷずっ……どぷぷっ…どぽっ!
射精した。
パンツのなかで、精液が溢れ出す。
肉棒全体がふるふると震えて、とめどなく精液がこぼれていく。
精液のぬめりと熱がペニスに絡みつく。
あたたかく湿ったぬちゃぬちゃとした空間が、さらにダメ押しのようにお尻で潰される。
僕は涼子を見ていた。
目を閉じることさえできずに、その綺麗に整った顔を見ていた。
どぽぉっ……!
一際強く律動して、下半身で精液が飛び出る。
その射精が、まるで涼子に向けて発射したような奇妙な錯覚がある。
涼子の頬を、唇を、真っ白く汚すような興奮に襲われる。
ぞくぞくとした、こまかな震えが体中に広がる。
僕はそのまま快感のただなかで、目を大きく見開いて涼子を見つめたまま、
静かに射精の余韻に浸っていた。