彼女が死んだ。
駅の階段を踏み外し、ころげ落ちて頭を打った。
それだけで恋人はこの世からいなくなった。
葬式には出席した。
だけど辺りかまわず泣きわめくことはできなかった。
だって、僕は彼女の担任だったから。
誰にも知られてはならない関係だったから。
学校ではつとめて冷静に教鞭を振るい、
アパートの一室に戻っては涙を流す。
そんな生活が何週間もつづき、
少しずつ僕は心の安定を取り戻していった。
彼女の死から立ち直りつつあると自覚したのは、
ひさしぶりに自慰行為にふけったときだった。
慰みものにしたのは、またしても教え子だった。
亡くなった恋人とは違う、けれど同じクラスの女生徒。
あさましい、と吐き気がするほどつよく思った。
けれど身体は欲望に忠実だった。
あっというまに果てた。
でも一度で満たされるわけがなかった。
いつのまにか眠りに落ちるまで、何度も射精を繰り返した。
そうして……下種な僕は日常に復帰した。
* * *
川瀬里緒(かわせ・りお)がいるのに気づいたのは、
帰宅途中の列車のなかだった。
吊り革につかまっている僕から数歩おいたところで、
座席に腰かけて眠っていた。
おかしいと思った。
彼女は自転車通学だし、家も反対方向のはずだ。
担任としては、声をかけても良かったかもしれない。
なにをしているのか、と。
だけどためらってしまった。
里緒こそが、想像のなかで犯しつくした少女だったから。
それともうひとつ。
しずかに眠る彼女の姿に見入ってしまったから。
電車が揺れるのにあわせて、
かたちの良いあごが、こくり、こくり、と揺れる。
艶のある黒髪が流れて、ときおり白い首筋がのぞく。
鞄の上にほっそりとした指が置かれている。
あの指でペニスを触られたら、どんなに気持ちいいだろうか。
雁首をなぞられる感触を想像して、背筋がふるえる。
ああ……まただ。
また僕は、彼女を欲望のはけ口にしようとしている。
その醜悪さがわかっているのに、イメージを押しとどめられない。
首元から手を差し込んで、彼女の胸をまさぐりたい。
すべすべとした太ももを撫で回したい。
両脚のあいだに顔を入れて匂いをかぎたい。
スカートの裾に自分のものをくるんでしごきたい。
身体中が火照っていた。
煮立った血液が指先まで詰まっているみたいだった。
ペニスは当然のようにきつく勃起している。
書類鞄を腰のあたりに抱えて、必死にその隆起を隠す。
まもなく到着します、という車内アナウンスが流れた。
それに反応したのか、里緒のまぶたが開く。
いまどこかを確認するように、彼女は周囲を見渡す。
視線が合った。
里緒がわらった。
僕の顔を見て、満面の笑みを浮かべた。
ぞくり、と全身が総毛立つ。
快楽と寒気がまざりあった、異様な感覚だった。
見てはいけないものを見たような。
見られてはいけないものを見られたような。
腰のなかを、ちゅるっ、と細いストローで吸われるような、
ごく弱く、だけど抗うことのできない快楽がはしる。
白く濁ったものが溢れそうになる。
けれど、それより先に列車が駅に着いた。
開いたドアに向けて、人の群れが流れ出す。
自分も降りる駅だったことに気づいて、
あわてて集団のなかに身体をすべり込ませる。
里緒の姿はもう見えなかった。
階段をおりて改札を通り抜けるあいだも、
ずっと鞄を腰に抱き、勃起を隠さなければならなかった。
どこにも寄らずに自宅へと急ぐ。
こんな状態で人前にいることなんてできなかった。
この苦しさから、早く抜け出したかった。
ふらふらした足取りで、小さなアパートに帰りつく。
ドアの鍵をあける手つきすらおぼつかない。
扉を開け、靴を脱ぎ……そこでもう抑えがきかなくなった。
廊下の入口にへたり込み、ベルトをゆるめる。
下着もいっしょに脱ぎ捨てて下半身を露出する。
勃起したペニスが、快感を求めて根元からひくつく。
照明さえついておらず室内は真っ暗だった。
その暗がりのなかに、さっきの里緒の顔が浮かんでくる。
いまになって分かる。
あれは加虐者の笑みだった。
誰かを蹂躙し、弄ぶときにする笑い方。
あさましい妄想のなかで、
僕に馬乗りになった里緒が浮かべる淫らな微笑み。
どうして里緒があんなふうに笑ったのか分からない。
たんなる気のせいなのかもしれない。
分かっているのは、僕がたまらなく興奮していること。
触れただけで漏らしそうなほどに。
指を添えただけで、少年の頃のように肉棒がびくんと跳ねる。
快感がほしくて、でも強すぎる快感が怖くて、
そうっと指で包皮を撫でていく。
ぞくぞくした感覚が、背筋から首、首から頬へと走りぬける。
二本の指で輪をつくり、亀頭の回りをゆっくりこする。
竿の根元の筋肉が、引きつってしまいそうに震える。
しごくたびに、甘い果汁のような気持ちがたまってゆく。
水を吸い込んだ和紙のように、理性がもろく崩れてゆく。
とろけた意識のなかで、里緒の顔に可奈の面影が重なる。
少しも似ていないはずなのに。
どうしてだろう。
身体を重ねることすらできずに終わってしまった恋人が、
里緒の瑞々しい身体の上で笑っている。
あのいやらしく歪んだ顔で笑っている。
出して、とささやかれる。
肩から鎖骨にかけてのラインをすうっと撫でられる感覚。
ふわり、と宙に浮かんだような気がして……それで射精していた。
薄暗がりのなかで、精液が飛び散るのがかすかに見えた。
ついで、ぼたぼた、と情けなく床に液体をこぼす感覚がある。
指の隙間にも、ぬるぬると生あたたかいものが垂れてくる。
軋んだ音を立てて、玄関ドアが開いた。
切れかけた蛍光灯の放つちらちらした光のなかに、
斜めに人影が伸びていた。
「…………あ」
まぬけた声を出した僕を見て、里緒はまた微笑んだ。
彼女は部屋に足を踏み入れ、後ろ手にドアを閉める。
またしても視界が暗くなった。
なにが起こっているのか分からない。
どうして里緒がここにいるんだろう。
どうして僕を見て笑っているんだろう。
いや、そもそもいま見たものは正しかったんだろうか。
目の前の黒いシルエットは、ほんとうに里緒なんだろうか。
部屋の明かりがついた。
壁のスイッチを里緒が押していた。
僕の前にいるのは、たしかに里緒だった。
「先生、オナニーしてたんですね」
その一言で我に返った。
玄関と廊下のあちこちで、白い粘液がてかてかと光っている。
壁にはりついた精液が、ゆっくりと垂れ落ちる。
草をすりつぶしたような、あの独特の匂いが鼻をつく。
「いや、これ……は……………」
場をごまかせる言葉はなにも出てこなかった。
なにも考えられなくて、なにも考えたくなくて、
呆然として教え子を見上げる。
里緒の表情には軽蔑はなかった。
かわりに愉悦が、唇の端からこぼれそうなほどに溢れていた。
「……なにを想像して、シたんですか?」
身をかがめて、僕の耳元で囁く。
あたたかい吐息が耳たぶにかかる。
吐息はすこし温度を下げながら首筋を這いおりる。
肩がびくっと震えてしまう。
緩んだブラウスの胸元から、谷間がのぞいている。
見ているだけで柔らかさが伝わってくる大きな胸。
乳房の隙間に、指を差し込み、手の平をもぐり込ませたい。
指の跡がつくぐらい、思いきりまさぐりたい。
「おっぱい、気になります?
……ここに押しつけることとか、想像してたんですか?
ほら……また硬くなってますよ」
ペニスはこれ以上ないほど張りつめていた。
たったいま射精したばかりというのが、自分で信じられない。
この硬いものを里緒にこすりつけたくてたまらない。
あの巨乳をペニスの形にへこませてみたい。
きっと……とても気持ちいいだろうな。
亀頭の先っぽのぬるぬるを、乳房の隅から隅まで塗りたくって
とろとろになった胸のなかで射精して。
教え子のおっぱいに精液をぶちまけて……。
快楽とは違う、ぞくりとした悪寒が駆け抜ける。
僕はいったい、何をしてるんだろうか。
下半身を露出したまま、生徒とこんな距離で、なにを。
「あれ……どうしたんですか、先生?
急に逃げたりなんかして」
尻をついたまま後ずさりした僕を、里緒がゆっくり追ってくる。
四つんばいになって、いっそう谷間を見せつけながら。
だめだ……見たら、だめだ…………見たら……。
里緒は指をブラウスの襟元にかけ、胸元を開いてみせる。
白熱灯の光が肌にあたって、蠱惑的に光る。
妄想のなかでかじりついていた柔らかい肉体が目の前にある。
「だめだ……だめだ、だめだ………!」
口に出して、必死に精神を奮い起こす。
たしかに僕は屑だ。
教え子に欲情してしまうどうしようもない人間だ。
教え子と交際して有頂天になり、あっというまに彼女を失って、
かわりに別の女生徒との淫らな妄想にふける屑だ。
だけど……だからって…………。
「どうして、だめ、なんて言うんですか?
付き合ってもいない生徒に襲いかかるのは、
さすがに気が引けます?
それとも……死んだ恋人に申し訳が立ちません?」
言葉を失った一瞬に、彼女が身をすり寄せてくる。
すべすべした肌が、裸の下半身にまとわりつく。
柔らかい膝がペニスに触れて、それだけで出そうになる。
だけど唇を噛みしめて耐えた。
口のなかに血の味がうっすら広がる。
「こんなに硬くして、今にも出そうで。
それでも我慢するんですね。
あいかわらずヘンなところで真面目ですね。
……ねえ、センセ?」
センセ、という単語が優しく響いた。
人をからかうような、それでいて少し舌足らずな喋り方。
かつての恋人の……可奈の喋り方だった。
「センセ、気がねしなくていいんですよ?
里緒ちゃんの身体で射精しても、私怒ったりしませんから」
「………………可奈?」
「そうですよ。センセのことが好きすぎて、
この子の身体を借りて戻ってきちゃいました。
……だから、いまは甘い恋人同士の時間です。
我慢なんてせずに、出しちゃっていいんですよ?」
射精をこらえすぎて頭がおかしくなったと思った。
幻覚を見てるに違いない。
だけど、もう欲望を止められなかった。
可奈に許されてしまったらもう……!
股間に絡みついていた足を両手で抱え込み、
すべすべとした太ももに肉棒を押しつける。
胸でとか膣でとか、色んな欲求があったけれど、
そういうのはあまりに遠回りすぎた。
いまは一秒でも早く、このやわらかい身体を味わいたい。
ペニスの先端から垂れ出すカウパーが、
きめこまやかな肌をぬるぬるに汚していく。
ぬちょぬちょという卑猥な音で頭のなかがいっぱいになる。
あったかくて粘ついた感触と、やらしい音と、甘い匂い。
「センセ、よだれ出ちゃってますよ。
若い女の子の太ももにおちんちんこすりつけて、気持ちいいですか?
私のことは気にせずに、好きなだけ快楽に浸ってくださいね。
約束破ったりはしませんから。
あとで浮気した、なんて怒ったりもしませんから。
私のことを裏切るなんて罪悪感は持たずに……さ、どうぞ」
里緒の手のひらが、亀頭を上からそっと押しつぶす。
ぐちゅっと音がして、裏筋がこすれて、ぬめぬめとした感触が広がる。
精液がペニスの根元に集まってくる。
…ああ……出る…っ………。
「さあ、なぁんにも知らないこの子を汚してくださいね、センセ」
思い出す。
教え子の身体に肉棒をこすりつけている事実を。
一方的に里緒を犯しているのだということを。
たとえ可奈が許してくれても、
里緒を強姦していることにはなんらかわりがないのだと。
……あ…………あぁああぁ……っ……!
だけどもう射精を止めようがなかった。
尿道口が開いて精液が噴出するのが分かる。
なめらかな肌の上にねばついた液体がぶちまけられる。
止めたかった。射精を止めてしまいたかった。
けど止められない。
こんなに、こんなに気持ちいいのに止められるわけない。
教え子の肌なのに……教え子の肌だから…………。
胸が焼けるように痛む。呼吸が荒い。
やめろと心のなかで叫びながら、それでも脚を抱いたまま。
ペニスが喜びに打ち震えて何度も何度もひくつく。
ずっと夢見ていた身体に精を吐き出しつづける。
「センセ、気持ちよかったですか?」
射精が終わっても……僕の頭が理性を少しは取り戻しても、
それでもまだ可奈はそこにいた。
里緒の身体を借りて、里緒の顔でわらっていた。
「ほんとうに……可奈?」
「そうですよ、演技なんかじゃありません。
センセのことが大好きな私です……信じられません?」
うっとりしたような目で里緒は……可奈は話す。
僕の吐き出した精液を指ですくいあげ、
人差し指と親指のあいだで糸を引いてみせる。
「私みたいなこと、たまにあるらしいんです。
大好きで大好きでたまらない人がいて、
それで死んじゃうと……その人に取りついちゃうんです。
つまり私の場合はセンセに」
精液がついたままの指先で、可奈は胸元をなぞる。
乳房にうっすらと透明な跡がついていく。
指が胸と胸のあいだに差し込まれる。
精液が谷間の奥へともぐり込んでいく。
「でも、それだけじゃ身体がないんです。
ただセンセのことを見てるだけ。
私のために泣いてくれてるの、ずうっと見てました。
……そのあと、里緒ちゃんでオナニーしましたよね。
いいんですよ、怒ってないですから。
最初はびっくりしたし、悲しかったです。
でも、いまはもういいんです。
そのおかげでセンセに会えるようになったんですから」
可奈の脚がゆっくりと動く。
僕の太ももの上に、かすかに湿った感触がある。
スカートに隠れて見えないけれど、
下着がこすりつけられてる。
「……センセ、ちゃんと話聞いてくれてます?
落ち着いてお話聞いてもらうために、射精してもらったのに。
ふふ、しょうがない人。
じゃあ、あとはかんたんに説明しちゃいます。
私はね、センセが欲情した人になら乗り移れるんです。
こうやって里緒ちゃんの身体を操るみたいに」
腰がくねるように動き、また下着がこすりつけられる。
スカートの裾がめくれて、白いレースがかすかに見える。
華奢な指が、僕の太ももの内側を撫でる。
下から上へと撫であげられ、そのまま竿をさすられる。
「センセ……また大きくなってきましたよ。
里緒ちゃんの指、そんなに気持ちいいですか?
それとも私にしてもらってるから、なんて言います?
私はどっちでもいいんですよ、本当に。
センセをよがらせてるのは結局私なんですから。
私、こうやって……センセといやらしいことしたかったんです」
カウパーが指先に絡めとられ、それが肉棒に塗られていく。
ペニスはすでにガチガチに勃起していた。
考えまいとしているのに、
どうしても可奈の言ったことを考えてしまう。
可奈は自由に里緒の身体を操れる。
可奈は僕の恋人で、僕と交わりたがってる。
僕はこの教え子の身体を…思うぞんぶん……好き勝手に……。
「おちんちん、ぴくぴく跳ねちゃってますよ。
想像しちゃったんですか?……私とするの。
教え子のえっちな身体を道具がわりにして、私とシちゃうこと」
身を起こして……可奈が壁に手をつく。
スカートの裾が尻の上でまでめくりあげられる。
白い下着があらわになる。
愛液で濡れそぼっているのが一目でわかった。
うっすらと秘所さえ透けて見えるような。
目を閉じた。
見ていたら絶対に我慢できなくなる。
してしまう。里緒の身体を犯してしまう。
「やっぱり我慢するんですね。そういうところも好きです。
だけど……だめですよ。
センセがこの身体を犯しつくして満足するまで、
私はこの身体から出て行けないんです。
里緒ちゃんを助けるには、私とするしかないんです。
……ね、素敵でしょ?」
ヒップがいやらしく左右に揺れる。
精液と愛液の入りまじった匂いが鼻腔を満たす。
意識がとろとろに溶けていく。
臀部は想像以上にやわらかく弾力に富んでいた。
気づけば、僕は彼女の尻をつかんでいる。
なんて触り心地のいい身体なんだろう。
もっとこの身体を味わいたい……味わっていいんだ。
それが里緒のためでもあるんだから。
下着をずらして、秘所にペニスを突き入れる。
亀頭から竿まであらゆる場所がぬるぬるに包まれる。
ぬるぬるが収縮するたび、頭のなかで気持ちよさが弾ける。
「んっ……センセの、わかる、わかるよぉ………。
ずっと…こうしたかった…よぉ……。
センセとぐちゅぐちゅ…やらしいことしたかったのぉ…!」
初デートのときの楽しそうな可奈の笑顔が思い浮かぶ。
あの笑顔の裏でこんな淫らなことを考えていたなんて。
「ね、センセも気持ちよくなってます……?
妄想してた里緒ちゃんの身体は良かった?」
良いに決まってた。
今度は教室に座っていた里緒の姿が思い出される。
長くほっそりと伸びた脚。その両脚のあいだ。布地の向こう側。
ずっと触りたかった。犯したかった。
挿入して大した時間も経っていないのに、もう絶頂が近かった。
ペニスの根元の痙攣が激しくなる。
射精の瞬間に最高の快感を得ようとして、腰の動きが早くなる。
「センセ、もう出ちゃいそう……なんでしょ。
ねぇ……このまま出しちゃいましょう。
私、センセのを受け止める感じ、知りたいから…。
里緒ちゃんはどうせ意識ないんですから……ね?
妊娠なんてそう簡単にしませんよ。
それに……センセが満足しなかったらだめ、なんですよ?
センセ、膣出ししたいんでしょ……」
可奈の言葉を聞くと同時に、射精していた。
精液が水鉄砲みたいにぴゅうっと発射されていくのが分かる。
膣がうねってさらに精液を絞りだしてくる。
彼女の腰をつかんでいないと立ってさえいられない。
脳のなかが何度も白くフラッシュバックする……。
そのあとも繰り返し繰り返し、
可奈の心と交わりながら、里緒の身体を犯しつづけた。
二人のためという言い訳を胸に抱えたまま快楽に浸りつづけた。
吐き出す精液もついになくなった頃、
可奈がよろめきながら立ち上がった。
「センセ……とってもよかったです。
里緒ちゃんの身体から、やっと出て行けそうです。
といっても、ちゃんと家までは送り届けますけど」
僕は可奈にそっと語りかける。
「これで本当に……お別れ………なんだよね」
可奈はわらった。
「そういうと思ってました、センセ。
でも違いますよ……お別れなんかじゃ、ありません」
可奈の笑いが、疲労と満足の笑みから、ゆっくりと変わっていく。
あの……楽しげで人を弄ぶ笑みへと。
「私、センセが満足したら消えちゃうなんて言ってませんよ。
私はずっとずうっとセンセと一緒です。
次にセンセが誰かに欲情したら、
またその人の身体を借りてセンセに会いに来ます。
明日か、明後日か。
センセのことだから、今日のうちだったりして」
その言葉はもう、ずいぶんと遠くで聞こえた。
身体が聞くことを拒否していた。
だけど、遠くで甘い呪詛のように声は響きつづける。
……ねえ、センセ。
これからもずっといっしょにいましょう。
ずっと気持ちいいことしつづけましょう。
知らない誰かを、知ってる誰かを、
二人で自由に犯して遊びましょう。
センセ、私うれしいんです。
これでもう浮気の心配もいりません。
だってセンセが誰かを好きになったら、
その瞬間にその人は私になってるんですから。
そうですね、もしかしたら。
いつの日か、センセが純粋な愛情だけで誰かを愛せたら
私は消えちゃうかもしれないですね。
でも、センセにできますか?
教え子を犯しつくてしまうようなセンセにできますか?
遠い遠い先になら、もしかしたら。
センセが年老いて死ぬ間際になら、もしかしたら。
それまではずうっと私といっしょです。
恋人たちの甘くて楽しい時間をつづけましょう。
ずっと……ずうっと………………ね。
END