ある日の二人

スノウ
「おおー、すごいいっぱい!きらきら!」

クリス
「言いたいことはなんとなく分かるけど、
 表現が五歳児ぐらいになってるよ……」

まあ、スノウが興奮する気持ちも分かる。
カフェの店内には、
所狭しとたくさんのケーキが並べられてる。

種類も、クリーム主体のからチョコレート、
チーズケーキ、フルーツたくさんの……と
よりどりみどり。
たしかにいっぱいで、きらきらだった。

スノウ
「これがケーキバイキングなんだー。
 ふふー、私はじめてなんだよねー♪
 あ、お皿はこれを使えばいいのかな?」

周りのお客さんの様子を真似るようにして、
スノウが空き皿を手に取り、
さっそく列に並びはじめてる。
このぶんだと、僕は席取りの方が良さそうだ。

クリス
(この辺り……でいいかな)

手頃な席を見つけて周りを見渡すと、
僕と同じように手持ち無沙汰な感じの男性が
ちらほら見受けられる。

視線が合うと、ぺこっと頭を下げられたあとで
「大変ですね」とでも言うように
苦笑いされてしまった。
同じように僕も苦笑を返す。

二人分のコーヒーを注文しおえたところで、
スノウが席にやってきた。
大量のケーキと一緒に。

スノウ
「しょっと……わわ、危ない危ない。
 落とすところだったよー」

ガチャガチャ…とお皿がテーブルに並ぶ。
いち、にー、さん、しー……まだある……。

クリス
「大神官様……取りすぎじゃないですか?」

スノウ
「そんなことないよ?
 みんなもいっぱい取ってたよ?」

それにしたって、
片手に三皿ずつ、計6皿。
しかも一皿に2つも3つもケーキが乗ってて。

クリス
「そんな慌てなくても、
 あとでまた取りに行けばいいのに……」

スノウ
「えっ、もう一回取りにいっていいのっ。
 そういうルールなんだ……じゃあ……」

クリス
「いやいや、いまあるぶん食べてからね」

スノウ
「で、でも気になってるのがなくなったら……」

クリス
「あとで補充されるから。大丈夫だから」

スノウ
「……ほんとに?
 嘘だったらクリスに作ってもらうからね」

クリス
「……たぶん、大丈夫」

カップル限定デーということもあってか、
超混雑というほどじゃない。
材料もそう簡単に切れたりはしないはず。
……たぶん。

メープル
「勇者様、コーヒーお待たせしましたー♪
 はい、大神官様……も……」

顔見知りのウェイトレスの子が
コーヒーを運んできてくれて、
そしてスノウの手元に置く場所がないのを見て
唖然としてる……。

クリス
「あ、えと、こっちに置いといて」

メープル
「分かりました、ではこちらに。
 今日はお二人でデートですか?」

誰かに聞かれるだろう、とは
思ってた質問だった。
それはスノウも同じだったみたいで、
何気ない様子で返事をかえす。

スノウ
「ふふっ、というか。
 私が無理矢理に誘っちゃったんだー。
 男女ペアじゃないと参加できないからって」

デートという質問自体には、
イエスともノーとも答えていない。
さすが人心の掌握に慣れた大神官様。
……と思って見てると、にらまれた。

メープル
「なるほどですー♪
 では、今日は楽しんでいってくださいね。
 美味しかったら宣伝もお願いしますっ♪」

メープルは小さくお辞儀すると、
そのまま他のテーブルに注文を取りに行く。
なんだかんだ忙しいみたいだ。

スノウ
「よし、今度の神殿の講話で宣伝しよー♪」

クリス
「公私混同はだめじゃないかな……」

スノウ
「えー、クリスも公私混同してるのに」

クリス
「してない、してない」

スノウ
「ほんとに?
 お仕事をきっかけに、
 女の子と仲良くなったりしてない?」

スノウ
「たとえばー。
 いまの子と知り合いっぽかったのは、
 どうしてなのかなー、クリスくん?」

クリス
「……コーヒー代、僕が払います」

スノウ
「うん、よろしいー」

にっこり笑ってから、スノウがフォークを手に取る。
みるみるうちに、ケーキの群れが数を減らしてく。
これはたしかにバイキングだな、とか思う。

……けど、そのあいだも、
ちょっとだけいまのやりとりが引っかかってる。

クリス
「……もっとさ」

スノウ
「……むふむぅ?」

ケーキを飲み込んだスノウが、
きょとんとした顔で、あらためて聞いてくる。

スノウ
「……どうしたの?」

クリス
「もっと怒ってもいいんだよ。
 なんで他の子と仲良くなってるのーって」

スノウ
「ふふっ、そういうことかー。
 うーん、そうだよね。
 なんていうか、無関心みたいに見えちゃうか」

スノウ
「でも、そうじゃなくてね。
 私はクリスの人生を束縛したくないし、
 自分だけを見て、とも言えないから」

クリス
「……スノウ」

スノウ
「無償の愛とか、そんなんでもないよ。
 私を見てくれるのが、やっぱり嬉しい。
 けど、それを強制したくはなくて……分かる?」

クリス
「……うん、分かる気がする」

スノウ
「さすが。そう、ショートケーキのイチゴみたいに、
 私にとってクリスは唯一無二だよ。
 でもフルーツタルトに乗っちゃうのだって自由」

クリス
「……ごめん、全然分からなくなった」

スノウ
「え、え……そうかな?
 イチゴジャムにしてパンに塗るとかの方が
 分かりやすかった?」

クリス
「……僕、すり潰されるの?」

スノウ
「私、ヒールできるから大丈夫だよ?」

クリス
「……お許しください、大神官様」

スノウ
「ふふー、じゃあねー」

スノウがにっこり笑って、
手元のチョコケーキの欠片にフォークを刺す。
そのまま、僕にフォークを手渡す。

スノウ
「はいっ、あれして」

それだけで、なにをしてほしいか察しがついた。
気恥ずかしいけど、
でも、してあげたいとも、思った。

クリス
「分かった。
 じゃあ……行くよ?」

耳までかっと熱くなる。
でも、思い切ってその言葉を口にする。

クリス
「はい、あーん……」

差し出したケーキの欠片を、
スノウが口に含む。
幸せいっぱいの笑顔で、微笑む。

スノウ
「ん、美味しいー。
 ありがとう、クリス…♪」